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揺れる

「普通に」*大翔

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 試合は、僅差ではあったけれど、真斗のチームが勝った。
 良かった。これで負けてたら、奏斗の落ち込みが激しそうだったから。

「真斗!!」
 デカい声で呼ぶと、真斗が振り返って、奏斗とオレに手を振る。

「おめでと!」
 奏斗がそう言うと、真斗は笑って頷いた。そのまま、出ていく真斗を視線で追う。

「――――……帰ろ?」
 真斗が見えなくなると、奏斗は少し振り返ってから、オレを見た。

「あ、奏斗、スマホ持ってて」
「え?」

「江川からOKが来たら、出よう」
「――――……」

 少し考えた後、なんとなく悟ったらしく、奏斗がスマホを右手で持つ。

「……四ノ宮」
「ん?」

 どんどん周りの席から人が居なくなっていくのを、ぼんやりと眺めていたら、奏斗に呼ばれる。

「何?」
 少し俯きがちなので、首を曲げて覗き込むと。


「……あのさ」
「うん」

「…………和希は……なんて?」
「――――……」

 表情は、読めない。オレと、目を合わせないから。
 太ももの上に置いた手の平のスマホを見ている。


「……聞く前に考えておいて」
「……え?」

「後で話すけど。先に色んなパターン考えて、自分の気持ち、考えて」
「――――……ん。……分かった」

 なんだか不思議そうな顔ではあったけれど、奏斗は頷いた。

 もうすでに考えていそうな顔をしているので、オレが黙ると、奏斗もそのまま黙ったまま。
 人気がなくなっていくのを、オレはなんとなく見ていた。

 その内、客席には誰も居なくなって、下のコートに、大会の関係者ぽい、そういう人ばかり。

 そろそろ出ろって言われるかな……。そう思った時。
 奏斗のスマホが小さく音を立てた。

「あ。――――……大地から。OKだってさ」
「あ、ほんと。なんか礼でも入れといて」
「うん……」

 少し待っていると、入れた、と奏斗。

「じゃあ、ごはん、食べに行く?」
 そう言うと、うつむき加減でスマホを見ていた奏斗はオレを振り仰ぐ。

「な、四ノ宮」
「ん?」

「何食べたい? おごるって言っただろ?」
「――――……」

 そういえばさっき言ってたっけ。

「考えながら、車、行きましょうか」
「うん」

 ゆっくり立ち上がって、奏斗が背伸びをする。

「……なんか」
「ん」
「体が、固まってる」

「――――……緊張、してた??」

 そう聞くと。オレを少し見上げて。

「すごく、してた、かも」

 はぁ、と息をついた、苦笑いの顔を見てたら。
 周りに誰も居ないこともあって、つい。
 頬に触れて、そのまま、軽く、キス、してしまった。

「――――……は?」

 奏斗がめちゃくちゃ驚いた顔で、手の甲で唇に触れてる。

「……あ。ごめん。つい」

 苦笑いで奏斗に言うと、「ついじゃないし」と眉を寄せる。

「外だし、つか、軽くすんなってばもう、何なの、ほんとに」
「――――……うん」

「うんじゃないっつの! もう……」

 ちょっと怒ってる。
 また少し笑ってしまう。

 ――――……ため息ついてる困った苦笑いよりは、ずっとマシ。
 しかもこれ怒ってるのは、オレに対してだし。


「……奏斗」
「――――……」

 むっとしてるその頬に触れて、ぷに、とつまむ。

「……何?」
「――――……奏斗は何食べたい?」

「……人の顔に触って聞くこと?」
「……あぁ、そういえば」

 手を引っ込めると。

「お前、ほんと変」

 そんなことを言って、ふ、と笑う顔を見たら。
 こっちも笑顔で返してしまう。
 

「オレなんでもいいから。奏斗が食べたいもの食べようよ」


 そう言うと、え、いいの? と言いながらすぐ、じゃあ何にしようかなーと考え始める。

 それを聞きながら、階段を上り始めた。


 普通の顔で、普通に笑って、楽しそうにしてる方が、絶対良い。
 ……んで。


 ……その横に、ずっと居たい気がする。



 




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