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揺れる
「ムカつく」*大翔
しおりを挟むしばらく、そのままの状態で試合を見ていた。
普段だったら手を握ったまま試合なんて見るはずもない。
オレにつかまっているそのことにすら気づいてないみたいで、心配になってしまう。
真斗がシュートを決めて、奏斗が少しだけ笑顔になった時になってようやく気付いた。
「あ。ご、めん。オレ、ずっと掴んでた……?」
奏斗がそんな風に言いながら、そっとオレから手を離した。
「つかまってても、いいよ?」
「……ううん、平気」
……全然平気そうじゃないのに、そう言って、少しだけ笑って見せてくる。
そんなオレ達の視線の先で、試合はハーフタイムに入った。
「奏斗」
「ん……?」
「さっき、あいつ、試合が終わるまで待ってるって言ってたけど」
「――――……」
「奏斗は、話したい?」
「――――……」
まっすぐオレを見て、首を振る。
「少しも、話さなくて、後悔しないの?」
「――――……しない」
「ほんとに?」
「……謝られても……万一もう一度とか……どんな話にしても……もう全部、今更だし。話して良いことなんて、無いから……」
奏斗の言いたいことは、分かるけど。
「なあ。聞いて?」
「――――……」
オレの言葉に、奏斗がまた顔を上げる。
「話して、すっきり終わらせるって、手もあると思う」
「――――……」
「謝られるなら分かったって言えばいいし。本当にもう一度、なら、ふざけんなって言えばいいし。……じゃないと、ずっと他の友達にも会えないままだし」
「――――……」
じっとオレを見つめていた奏斗は、軽く唇を嚙んでから。
それでも、首を振った。
「オレ……もう会えないかもって、覚悟――――……してる」
はー。なんか……。
――――……ムカつくんだよなあ、マジで……。
この人みたいな人が、部活の友達と縁切って、とか……無理してやってるのも、分かってるのに。
覚悟してるとか。
そんな、ただ逃げてるみたいなことしてるのも――――……結局、奏斗があいつに縛られてるみたいで、正直、オレが、ムカつく。……でも。
「……奏斗」
「――――……」
「……奏斗が本気でそれで良いなら」
「――――……」
「本当に良いなら、オレが、あいつに言ってきてやる。待つなって」
「…………」
「自分で話すのが嫌なら、今すぐ、言ってくる」
「――――……頼んで、いいの、そんなの」
「いいよ」
しばらく迷ったような顔をしていた奏斗は、その内、まっすぐオレを見上げた。
「……頼む」
「――――……分かった。待ってて」
「あ、四ノ宮」
「ん?」
立ち上がりかけてたオレは、呼ばれて、奏斗を見下ろす。
少しだけ黙って――――……それから、奏斗は、言いにくそうに、口を開く。
「……オレの、こと……言わないで?」
「……奏斗のことって?」
「…………クラブのこととか」
分かった瞬間、更に怒りが湧いたけど――――……奏斗には見せずに、頷いた。
「もちろん。余計なことは、言わねえから心配しないで」
「……うん」
頷いた奏斗を置いて、立ち上がると階段を上る。
クラブのことって。
……不特定の奴と、そーいうことしてたの。あいつに、知られたくないのか。
……つーか、あいつのせいじゃんか。
ほんとなら、全部ぶちまけて、お前のせいだって言ってやりたいとこだけど。
……あんな、泣きそうな顔されたら、言えるわけがない。
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