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揺れる

「最悪」*大翔

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 最初こそ、マークが外せなくて苦戦していたけれど、試合時間が経過するごとに、だんだん真斗の動きが良くなってきた。一旦、休憩に入って、ふ、と応援の力を抜いた。

「いいね、真斗」
 そう言うと、奏斗も「うん」と素直に嬉しそう。

「一、二年の時って、普段あんまり試合とか見に行かないから。もう終わりかーって思うと寂しいけど」
「まだ勝ったら続くでしょ」
「うん。そうなんだけどさ。……そういえば、四ノ宮って、バスケ、強い高校だった?」
「うんまあ、県でトップの方」
「……補欠だったとか?」
「何でだよ。レギュラーだったし」

「……なんでもできるの、ほんとむかつく。補欠だったって言ってくれれば、ちょっと可愛かったのに」

 なんだかよく分からないことを、ぶつぶつ言いながらミルクティーを口にしている。

「それで可愛いって思われても、全然嬉しくないけど」
 苦笑いで言うと、奏斗はじろ、とオレを見つめた。

「じゃあ他のことで可愛いって言えば、嬉しいの?」
「……いや。可愛いは、嬉しくないな」

 笑ってしまいながら答えると、奏斗は、オレには言うじゃん、とまたむくれている。

「オレだって、全然嬉しくないからね」
 むっとしてるので、苦笑いでスルーしてみる。

 でも――――……和希に言われるのは。
 ……嬉しかったんだろ、とか。

 少し頭をよぎる。

「四ノ宮?」
「……ん?」

「お前真顔だと怖い。何考えてた?」
「――――……失礼な。何、怖いって」
「……え、だって怖いし」

 真顔になってたか。と、少し自分に呆れるが。怖いってなんだよ、と奏斗を見ると。

「……ごめん、なんか怖いって自然と出る」
「なんのフォローにもなってなくて、謝ってるけど、全然謝る気、ないでしょ」
「……まあ」

 あはは、と笑いながら「あ、真斗出てきた」と、話を無理やり変えている。

「真斗、がんばれー!!」
 奏斗が大きな声で言うと、真斗が一瞬振り返って、少し笑う。

「今度はオレの声に気づいたもんねー」

 ……子供か。と思うような言い方で言って、ご機嫌。
 まあご機嫌で楽しそうだから、いっか。

 ――――……そう思った、時。だった。


「……カナ?」

 背後で声がして。振り返ろうとした瞬間。誰かがオレの前を横切って。
 奏斗の腕を掴んだ。

「奏斗?」
「――――……」

「カナ……」
「――――……か……ず……?」

 さっき見た、あいつ――――……見た瞬間に、ぼんやりとしていたのがはっきりした。……和希だ。

 奏斗は腕を掴まれたまま、呆然と、固まってる。

「カナ、オレ――――……」

 和希は何か言いかけていたが、オレは、和希のその手を離させて、奏斗の腕を引いた。びっくりした顔で、奏斗はオレを見る。そこで、正気に戻ったみたいで、奏斗は、呆然と和希を見つめていた顔を背けて、俯いた。 

「奏斗、オレ、お前に話が……」
「……無い」

「カナ……」

 もう一度、和希が呼ぶけれど、奏斗は俯いたまま、首を振る。


「……とにかく、今、試合中だから」

 オレが、和希を見上げて言うと。一瞬オレを見て、誰だろうと思ったみたいだが。

「……カナ、試合が終わるまで、待ってるから」
「――――……」

 奏斗は俯いたまま、首を振って、嫌だ、と呟く。

「――――……嫌だって、言ってる」

 オレが思わず眉をひそめて、奏斗との間に少し体をずらして言うと、和希は唇をかみしめて。それから、待ってるから、と言って、離れていった。

「――――……奏斗、行ったよ」

 奏斗は、あ、と顔をあげて、オレを見た。

「四ノ宮……」
「……うん」

「……和希……だった」
「ん……ごめん、居るの、知ってた。言おうか、迷ってた」

「……え、何で、知ってた……?」
「……ジュース買いに行ったとき、江川が居て……聞いた」

「……あ、大地……なるほど…………」

 奏斗の手が、オレの手首をぎゅと、掴んでて。
 まるで助けを求めてるみたいなその手は、震えていた。

「大丈夫だよ。試合終わったら、連れて帰るから」
「――――……ん」

「話したいなら、見守るけど」
「――――……」

 すぐに、首を横に振る。


「……話すこと、無い」
「後悔しないなら、いいけど」
「……しない」

 声が震えてる。
 オレは、手を奏斗の頬に触れさせて、顔を上げさせた。

 周りは試合を見てて、こっちは見てないし……見られてもいいし。
 奏斗も、そんなことを気にしていられる風ではない。


 泣きそうな顔、してるから――――……なんか本当に、胸が痛い。
 ……あの野郎、と、乱暴な言葉が頭に浮かぶ。

 真斗の高校知ってるなら、見に来るかもって……伝えときゃよかった。
 心の準備、出来たかもしれないのに。

 ぐい、と頬を撫でて、離す。

「奏斗が嫌なら、すぐ連れて帰るから大丈夫。それより、真斗の試合見よう?」
「……あ、うん。見る」

 奏斗が、やっとのことで自分で顔を上げて、コートの方に視線を向けた。


 多分無意識に。
 オレに捕まったまま、震えてる、手。


 あー、なんか――――……ほんと、まだダメなんだな……。
 そうだよな。

 ……和希が奏斗の連絡先を聞いてたって聞くだけで、うろたえてた位、だもんな……。


 
 ――――……最悪。



 もう片方の手で、奏斗の手をぎゅ、と握った。





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