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揺れる

「結局一緒に」*奏斗

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 出ないと、鳴り続けそう……。
 すごい、こんなに電話に出るのが嫌なことって有るかなあと思いながら、通話ボタンを押すと。

「……もしもし」
『あのさぁ』

「……」
『子供じゃないんだから、逃げんなよ。今どこらへん?』

 呆れたような物言いに。頭の中で、カッチーンという音が鳴る。

 …………うっわー。ムカつく……。
 子供じゃないし!
 子供だったらそもそもいろんなこと悩んでないし、お前と変なことにもなんないし、逃げることだって、してないし!

 むぐぐぐぐ、ムカつくー!


「っオレ、もう先帰るから。あと、今から真斗と電話するから、邪魔しないで」
『ちょ――――……』


 ぶち。切ってすぐ、真斗へと電話を掛ける。四ノ宮からの着信が鳴らないように。

『はい。もしもし、カナ?』
「うん。真斗、ごめん、ゼミの食事会で、遅くなっちゃった」
『まだ外なの? 気を付けて帰れよ?』

 ……弟にまでなぜ、心配されるのだろうか。

「大丈夫だよ。オレ男だってば。……明日、見に行くから」
『あ、そうだ、カナ』
「ん?」
『さっき、大会の参加チーム見てたんだけどさ』
「うん?」
『カナの高校も勝ち残っててさ。ただ同じ時間に別のコートだから、試合が始まっちゃえば会わないと思うんだけど』
「あ、そうなんだ……」

 ――――……皆、頑張ってるのか。
 ……オレが三年の時に、一年だった皆だもんな……。ほんとなら応援、してあげたいけど。

「……見つからないようにちょっと変装してく」
『変装?』

「……ちょっと深めの帽子かぶって、 顔あんま見えないようにしてくから」
『……まあ、いいけど。あの人は来ないの?』
「あの人って?」
『こないだの――――……えーっと……あ。四ノ宮さん』
「……なんで、四ノ宮?」

『え。……なんかあの人でっかいから、カナ、隠れられていいんじゃないかなって思っただけ』

 真斗はクスクス笑いながら、そんなことを言う。

「こないだはたまたま居ただけ。明日は一人で行く」
『そうなんだ』

「大丈夫、通路とかはささーっと通り過ぎて、コート入って試合見たら、速攻帰るから」

 言った瞬間。
 背後から急に気配がして。

「つか、オレ、行くし」
「げ」

 姿を認識した瞬間、オレから漏れた一言に、四ノ宮は、苦笑い。

「何、げって。失礼」
「……っ」

 ……もっと早く歩けば良かった。


「弟? 電話貸して?」
「は?」

『あ、カナ、かわって』
「は?」

 四ノ宮の発言に眉をひそめてるのに、それが聞こえたらしい真斗のセリフにも、顔が険しくなってしまう。
 しかもそれも、四ノ宮に聞こえてるし。

「ほら、弟も、かわってだって」
「……っ」

 もう、ほんと、なんなわけ。

「あ、もしもし? 真斗くん?」
『あ、四ノ宮さん? 真斗でいいですよ』

 すぐ近くなので、声、聞こえてくるけど。
 ……真斗、何言ってんの、呼び捨てとか許可すんなー、仲良くなるつもりなのか。真斗にしては、こんなの、珍しすぎる。何なの。

「真斗でいいの?」

 四ノ宮はなんだか面白そうな顔で、オレを見ながらニヤニヤしてるし。

『明日、来てくれますか?』
「うん。行くつもりだった」

『……変なお願いなんですけど、なるべくカナを、隠しながら歩いてもらえませんか』
「どういう意味?」

『会わせたくない人達が、居る可能性があるんです』

 そこまで聞いたけど、もう、四ノ宮から電話を奪い返す。
 何でだか道に立ち止まって話していたことに気づいて、歩き始める。
 四ノ宮も後ろからついてくる。

「真斗、なんで変なこと、頼むんだよ。もう。大丈夫だよ、別に会ったからって、何がどうってわけでもないんだし」
『……カズくん、来るかもしれないじゃん。平気なの?』
「……別にもう、平気だし」

『――――……四ノ宮さんと応援きてね』
「なんで四ノ宮とな訳」

 隣に居る四ノ宮を見ながらため息をついてしまう。


「明日も、試合見たら勝手に帰るから気にしないで」
『うん。多分そんなに時間はないからそれでいい。また泊りに行くから。じゃあね』
「うん」

 電話を切ってから。隣の四ノ宮を見上げながら。

「あのさぁ……」
「ん?」

「……なんで追いかけてくるんだよ」

 そう言うと、四ノ宮は、別に?と笑う。

「普通に歩いてきたら、奏斗が電話しながらのろのろ歩いてたから、追いついただけ」
「別にのろのろしてないし。普通に歩いてたし」

 そう言うと。

「まあ……少しは早歩きしたけど」

 四ノ宮は楽しそうに笑って、オレを見つめてくる。



 ……結局。一緒に歩いてるし。

 もう。
 ほんとに、もう……。






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