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揺れる

「面白くない」*大翔

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 ――――……椿先生が合宿について話してるのを、配られたプリントを見ながら、聞く。

 皆が下を向いてるのを良い事に、ちら、と奏斗に視線を向けると。
 敏く気づいた奏斗が、キッとオレを睨む。



『お前、次これ学校でしたら、絶交するからな!!』

 さっき、トイレで最後に、小声で叫ばれた言葉。

 ……絶交って……。
 なんかこないだも言われたような。

 交流を断つってことだから、別に使っちゃいけない訳ではないが。

 子供の喧嘩で使われる奴だよな。


 ……すっげーキレられた。


 そう思うのだけど。
 なんか、笑いがこみあげてきて、オレは口元を右手で隠した。


 何か。
 ――――……奏斗が、オレの側で。オレのことしか、考えられないみたいにするのが。……なんかすげぇ、楽しいのかもしれない。


「毎年だけど、現地集合、現地解散だから。集合には遅れないように」

 そう言って顔を上げた先生が、ふとオレに気付いたらしく。

「四ノ宮くん、何か楽しいことあった?」
「……いえ」

 笑ってんのバレたか、と顔を引き締めていると、先生は、ふ、と謎に微笑んで、話に戻る。皆一瞬オレを見たが、すぐにちょっと笑いながら、またプリントに戻ってる。奏斗だけ、むー、とオレを見てる感じが分かったので、視線を流すと、ますますムッとした顔をして、肘をついてプリントを自分の顔の前に立てて、オレから隠れた。


「――――……」

 
 笑ってしまいそうになる。
 また先生にツッコまれそうなので、我慢するけど。


 ……外見は可愛いけど、中身めんどくせえし。
 めんどくせえけど――――……全部、可愛いとか……。



 ……奏斗に言ったら。
 奏斗は――――……どうするんだろ。


 また、意味わかんないって。
 宇宙人って。

 ――――……言われんのかな。






◇ ◇ ◇ ◇



 ゼミが終わって、居酒屋に来た。
 畳の席、長机にばらける。
 決まってるのは、椿先生は真ん中あたりに座り、その周辺が、三、四年の先輩達。あとはもう、店に入った順というか、適当。

 真ん中に座ってる人達はアルコール可、奏斗たちの学年は、誕生日が早ければ大丈夫な人も居て、オレの代は、もちろん全員禁止。

 時間が経つにつれ、大体真ん中の人達だけがうるさくなっていく気がする。
 ……椿先生は、どんだけ飲んでも、酔わないのが、毎度なんとなく嫌だ。


 今日は奏斗は、真ん中辺に座ったみたいで、まあ……。
 ひたすら可愛がられてる感じ。

 色々聞かれて、答えて。先輩達は?なんて聞き返して。
 まあ、ひたすら、楽しそうにしてる。


 さっき、ゼミを終えて、学校からここに来るまでの間に少しだけ話した。


「さっき、ごめん」

 そう声をかけた。

 ――――……なんかゼミ始まってしばらく、なんかちょっとやばそうな顔してたし。
 ……とりあえず人前に出る時、感じさせんのはやめようと思って。

 まあそれ言ったら、またキレられるから言わなかったが。


「……それほんとにごめんて思ってる?」

 じとー、と見上げられる。

「思ってる。ごめん」

 そう言うと。しばらく見つめられたけど、その内、ん、と頷いた。


「ほんとに思ってるなら、いいけど。……もう、しない?」
「――――……人がいるとこではね。しない」

「………………んん?」

 オレの返答に納得がいかなかったのか、奏斗は眉をひそめて、オレをじっと見つめる。
 なんかものすごく何か言いたげに口を開きかけた瞬間。

「店入ろうぜ、ユキ」

 相川先輩達に、奏斗を奪われて、連れていかれてしまった。



「――――……」

 超、不満げな顔、してたな。
 ふ、と笑ってしまう。


「なあ、大翔はどうする、合宿」


 不意に聞かれて、聞いた本人に視線をむける。
 ……あんまり聞いてなかった。


「……どうするって?」

「だから、どうやって行く? 一年四人で車借りる?」
「あぁ……オレ今ちょっと考え中。も少し待って」
「考え中って?」
「んー。別で行くかもしんない」

「えーそうなの? 大翔くんも一緒にいこうよー」
 女子二人がそう言う。


「んー、ごめん、まだ分かんなくて」


 そう答えながら――――……。
 奏斗と行きたいけど。と、考えてる自分。


 ちら、と奏斗に視線を流すと。


 ――――……酔っ払いの先輩に、肩を組まれて、なんか話されている。


 ゲイとか全く関係なく、酔っ払うとああやって人に触れる奴が居るのは認識しているが。

 何だかものすごく面白くない。


 何でもいいから話振って、邪魔しに行くか。

 ……そんな考えが、浮かぶ。



 
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