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揺れる

「めんどくせえのに」*大翔

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 江川と別れてそのまま、授業の教室に入り、遅かったこともあって、一番端に一人で座った。
 すぐに教授が入ってきて、ギリギリセーフ。

 雑談から始まって、授業が開始される。


 ――――……さっきの話が頭に浮かんでくる。



「――――……」


 よりを戻したいとか、そんな話、ありえないと思うけど。

 ……和希が、ただ謝るだけで、奏斗に会いたいと思うだろうかって話。

 謝って終わりなんて。
 ――――……謝って……やり直したいから、会いたい。
 まあそれしか、考えられない。

 もう恋とかしたくないって。
 あんなに好きでもだめだったから、もういいって、奏斗は言ってるけど。

 そんなに好きだった相手が、やり直したいって言ってくるなら話は別だよな。……そもそもが、好きだけど今しか別れられないって言われたわけだし。別れる時ですら好きで。別れても好きだったって、なったら。

 ……奏斗は、それを、断る理由はないよな。

 和希が悩んで別れて、それでも好きだったって、言われたら。
 ――――……。


 
 きっとそうなる。……のかな。


 ……まあ、それで、奏斗はきっと、幸せなんだろうし。
 ――――……今までみたいに、その場限りなんて、二度としないだろうし。


 和希の側で、笑って、生きてけるんだろうし。
 ……それはそれで、オレが心配することは、何もなくなる訳で。


「――――……」


 ……なんか。
 よく分かんねえけど。
 すげえ、イライラする。


 一回、そんな風に傷つけて、奏斗を捨てた奴に。
 全部任せて、渡すとか……。
 

 あー。
 ……つか全然頭入ってこねえな……。

 教授の話も、板書されていく文字も、何も入ってこない。



 なんかオレの頭ん中って。
 最近、奏斗のことばっかだな……。

 

 はー、と静かに息をついて。
 とりあえず、ノートに文字を移し始めた。

 



◇ ◇ ◇ ◇


 ゼミの時間。
 ――――……唯一、奏斗と同じ授業。

 モヤモヤし続けていたので、何となく早足で歩くと、奏斗と、階段の所で鉢合わせ。

「あ」

 ふ、と笑う奏斗。

「食堂来てた? 見なかったけど」
「あー……行かなかった」
「別のとこで食べたの?」
「ん」

 そうなんだ、と笑ってる。

「今日久しぶりにご飯たべに行くって。さっき椿先生が言ってた」
「ああ。行きますか?」
「うん。だってほぼ強制じゃん。考える余地ないだろ」

 クスクス笑って言う奏斗。

「そうですね」

 笑い返したところで、教室に到着。

 ゼミの教室は四角になるように配置された長机。大体、一年と二年で何となく分かれて座り、先生が真ん中に。空いてる所に先輩達。別に決められている訳じゃないが、そんな感じでいつも同じ。

 教室に入ると、自然と奏斗は二年の先輩達の所に向かうし、オレは一年の所に座る。

 奏斗は、楽しそうに笑ってて。
 ――――……元気で明るい。

 知らない男に抱かれたり。
 泣いてたり。丸まって座ってるとか。……そんなことしてるなんて、誰も想像しないだろうなと思ってしまう。

 ……オレだって、ラブホに入ってくとこで会うまで。
 ずっと、そう思ってた。

「まだ先生来ないかな」

 奏斗の声。

「五分位あるから大丈夫じゃねえ?」
「トイレ行ってくるー」

 言うと同時に立ち上がって、急いで出て行った。
 
「……飲み物買ってくる」

 言いながら立ち上がって、んー、とかいう声に視線だけ送って、教室を出て、トイレへ向かう。


「四ノ宮もトイレ?」
 
 奏斗が手を洗いながら振り返った所を、ぐい、と引いて、個室に連れ込む。

「え? なに――――……っっ」

 びっくりした顔を、おさえて。

「……ン……」

 唇を重ねて。
 すぐに深く。キスする。


「…………っ……」

 奏斗から、は、と熱い息が零れて。ぞく、とした感覚が、体の奥から、浮かぶ。


「も……っ馬鹿……!!」

 ぐい、と引き離される。


「っゼミだって、これから……!」
「――――……どういう意味?」

「……っ力、抜け……」

 意味が分かると同時にぐい、と引き寄せて抱き締める。


「――――…………っ?」


 あー。なんか。


 ――――……すげえ、めんどくせえのに。



 なんでこんな、可愛いんだろうか。







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