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揺れる

「不愉快」*大翔

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 食事が来て、二人で食べ始める。

 ふと少し冷静になると、目の前の江川の存在が何だかものすごくおかしく見えてくる。
 何でオレは、こいつと一緒にカフェで昼食ってんだろ……。
 絶対おかしいよな。

 ……オレ、こういうこと、するタイプじゃない。

 深く関わんねえし。
 ――――……奏斗の元カレの事が聞きたくて、まったくかけらも知らない、奏斗の後輩を捕まえて、一緒に食事しているとか。


 よく考えたら、マジで、ありえないな。



 そんなことをモヤモヤ考えながら、食べるのに集中したフリで黙っていると、江川がオレをじっと見ていることに気が付いた。


「……何?」
「――――……いや。気のせい、かなと思って」
「何が?」
「んー……」

 パスタの大盛りを食べながら、少し下がった位置からオレを見ると、江川は少し首を傾げた。


「何だよ?」
「……いや」

「言えよ。めんどくせーな」

 思わずそう言ってしまうと。

「――――……何か、四ノ宮、イメージ違うね?」
「……?」

「すっげー優しい王子様なのかと思ってた」
「――――……」


 奏斗に抱き付いてたのもあって、その後、奏斗を泣かせた……いや、泣かせたのは和希か。こいつは、奏斗が振られたきっかけを作った……かもしれない奴、というのもあって。

 外面取り繕うっていう気が、かけらもなかった。


「まあ、王子っぽいのとか意味分かんないから、いいけど」

 はは、と笑いながらオレを見る。


「だから、さっきの気のせいとか、何だよ?」

 オレが焦れて聞くと。

「……少しね、カズ先輩に似てるかなーって思ったんだけど。気のせいかな」
「――――……」

 ……なんか奏斗も言ってたような。
 つか、全然、嬉しくない。


「……あのさ、四ノ宮はさ」

 江川を正面から見つめ返すと。


「カナ先輩のこと、好きなの?」
「――――……」

 その質問に、思わず、首を傾げてしまう。


「好きって?」
「――――……恋愛とか……」


「――――……恋愛……?」


 オレが、奏斗を、恋愛で?

「なんか、すっげー不思議そうだね」

 江川はぷ、と吹き出して、そのままクスクス笑いながらオレを見つめる。
 

「四ノ宮は女の子が対象の人かな。まあそうだよね、超モテるでしょ」

「――――……江川は?」

「ん?」

「お前の対象って?」
「オレはどっちも。可愛い人がいいな。顔もだけど……中身も」

「――――……」



 可愛い人。

 ――――……可愛い。



「カナ先輩って、すっごい可愛いよね」
「――――……つか、今もそうな訳?」


 そう聞くと、江川は、んー、と一度唸った。


「まあさ。カナ先輩と会えてない間、別の子と付き合ったりはしてたけどさ」
「――――……」



「でも、昨日会えて――――……やっぱり、この人、可愛いなあって思った」


 ふ、と微笑むのを見て、何だかものすごく、モヤモヤする。


「まだ久しぶりに会ったところだから分かんないけどね。でも会えて、すっげー嬉しかった」
「――――……」



 何だか、何と答えるべきかわからない。

 黙ってるオレを見て、江川も少し黙ってから、苦笑いを浮かべた。



「あのさぁ?」
「――――……」



「……やっぱり、好きなの? カナ先輩のこと」


 何でもう一度聞かれた?と思いながら、江川を見返すと、オレのその気持ちが分かったようで。


「だって、なんか、すげー不満そうだからさ、オレがカナ先輩を可愛いって言ってると」


 そんな風に言われて。少し考える。



「――――……別に。無いけど、そんなこと」



 そう言うと、また少し黙った江川は、クスクス笑い出した。




「なんか四ノ宮って――――……面白ぇな?」


 ケタケタおかしそうに笑っている。



「何がだよ」



 ――――……何だかよく分からないけど、すげえ不愉快。
 





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