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揺れる

「愛されるとこ」*大翔

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「…………っ」


 少しだけ、キスして。ちゅ、と音を立ててから、ゆっくり離す。

 かあっと赤くなった奏斗の頬に触れると、睨まれる。


「だ、から、キス、すんなって、朝言ったじゃんか」
「……オレ、嫌だって、言いましたよね」

「……っもうオレ、一人で行くからなっ」

 ば、と手を振りほどかれて、奏斗が玄関に向かっていくのについていく。


「待ってるからね、奏斗が来るまで」
「……オレ来なかったらどーすんの」

「待ってるよ」

 クスクス笑ってそう答えると、奏斗は、むーっとした顔で、置いておいた鍵を手に出て行った。

 一応鍵をかけて、そのまま部屋に戻る。


 セックスには慣れてんのに。
 キスに慣れてないとか。

 ――――……なんか。ちぐはぐな。
 でもなんか。

 ……よくわかんね。――――……可愛いとか。
 

 学校の鞄を用意して玄関に置いてから、テーブルに肘をついて腰かけた。
 しばらく、そのまま奏斗が言ってたセリフ諸々を思い浮かべる。


 ……なんつーか。
 バレたくないっていうのと。
 オレにも迷惑かけたくないっていうのと。


 ――――……それから多分。

 誰かに依存して、頼るのも嫌なんだろうなと、思う。一人で生きてくこと、決めてる気がする。
 すごく好き同士の和希とダメだったんだから、もうそれ以上好きになるのは無理で、だったらもう恋愛なんてしたって無駄だって。したくないって、思ってる。

 そんだけ和希が全てだったってことだよな。
 ――――……なんか……すっげームカつくけど。

 ……あの話をオレに話せたのは――――……。
 昨日あの後輩に会って、後輩と和希のやりとりを知って、別れを告げられた意味を、納得したってことか?

 ……後輩にバレて、和希が耐えられなくなったのを、奏斗は、しょうがなかったと思った、ってこと? だから、オレに、やっと話せた?


 ――――……でも泣いてたしな。
 納得なんかいくはずない。


 何だか自分の中まで、ぐちゃぐちゃになっていく気がする。

 オレにだって、納得いかないんだから、奏斗のその気持ちは、どんだけだったんだろうと想像すると、またため息を付きそうになる。



 ……つか。おせーけど。
 まさかマジでオレのこと置いて、一人で行ってねーよな。

 めちゃくちゃ不快に思った瞬間。



 こんこん、と、ノックの音。


「――――……」


 途端に顔が綻ぶ自分に気付いて、苦笑いで口元を少し引き締める。
 ……にしても、ピンポン鳴らさないのが、ささやかすぎる抵抗な気がして、また少し、笑ってしまう。


「……奏斗?」

 玄関で靴を履きながら言うと、「他に誰がノックすんだよ」と、すごく嫌そうな声が聞こえてくる。

 心底嫌そうな声なのに。それでもなんだかついつい、また笑ってしまうオレは。一体なにがこんなに気に入ってるんだか。よく分からないが。


「お待たせ」

 ドアを開けて、外に、嫌そうな奏斗の複雑な顔を見ると。
 なんだかめちゃくちゃキスして、とろけさせたいなーとか。すぐ浮かぶ感覚に、まあ外なので、踏みとどまりながら、鍵をかける。



「いこ」

 歩き出すと、嫌そうに後ろをついてくるけど。
 普通に違う話を始めると、オレを普通に見上げて、頷いて、ちょっと笑顔で、会話を始める。


 やっぱり、この人が、人に愛されるとこ。
 こういうとこ、なんだろうなと、ぼんやり思う。

 
 オレ、相当訳わかんないこと言ってるし、やってる自覚もあるのに。

 そんなオレにも、こんな感じ。

 つか。なんか騙されそうで心配だけど。……まあ側に居るから、いいか。







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