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揺れる

「何だそれ」*大翔

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 奏斗の話を聞いて思ったのは。
 よくある話じゃなかった、ってこと。


 ――――……好きすぎるから、このタイミングで別れてくれって。
 物理的に、会えなくなるこのタイミングしか別れられないって。

 奏斗のことは好きだけど、男同士だから、将来的に、やっぱり無理だとか……。
 大好きだけどって……。

 ――――……何だ、それ。


 嫌いだから別れたいって言った方が、よっぽど優しい。

 大好きだなんて、最後に言って、それでも別れたいなんて、泣いた?
 で、キスして。奏斗の父親にバレて……。

 ……マジで、ふざけんな。
 ぶん殴ってやりたい。
  
 ――――……それで、今更何の用だっつの……。

 あー、すげえムカムカする。


「――――……」


 言い終わって、しばらく埋まったまま泣いてたみたいだけど、抱き締めてたら、その内、泣き止んだ。

「……奏斗?」
「……ん」

「鼻、かむ?」
「――――……四ノ宮の服でかんだ……」

「……マジで?」
「……嘘だよ」

 涙声で笑う。
 なんだか、可愛く感じてしまう。

 腕を伸ばして、ティッシュを取ると、すこし体を起こさせて、奏斗に渡す。
 鼻をかんで、はあ、と息をついてる。

「……ごめん。やっぱり話すと――――……ダメみたい」
「いいよ」

 ティッシュを受け取って、ゴミ箱に投げ入れて、もう一度、抱き寄せた。

「……でもそれは、あんたが悪いんじゃない」
「――――……」

「結局、男同士ってのが……無理だったんだろ。そういうのは、仕方ない。奏斗のせいじゃない」

 オレを見あげている奏斗を見つめたまま、そう言うと。
 奏斗は、しばらくオレをじっと見ていたけど。

 うん、と、笑った。

「……そう、なんだけどね」
「――――……だけどじゃねえよ」

 俯きそうになるその頬に手をかけて、あげさせる。

「……奏斗」
「――――……」

「それ、もう忘れろよ」
「――――……」

「……ただ、そいつが、覚悟が無かっただけだろ。奏斗のことは好きだったんだろ。嫌われてもない。奏斗が相手じゃなくても、そいつはそうしたんだろ。奏斗のせいじゃない」
「――――……でも、オレは……女の子は、好きになれないから」
「……だから、なに?」

「あんなに……お互い好きでも、終わるんだって、思うから……」
「覚悟できる奴と、付き合えばいいじゃんか」

「うん。……そう、なんだけどね……」
「――――……」

「……信じるのも……あんな風になるのも、もう、嫌だなって」

 視線が逸らされて、瞳が、揺れる。

 ため息をつきそうになったけど、ぐっと息を止めて、奏斗を抱き締めた。


「……あんたが、ちゃんと、忘れられるまで、ずっと居るから」

「――――……」



「泣きたくなったら、オレのとこおいでよ?」
「――――……」


 返事はしなかったけど。
 オレに抱き締められたまま、前に垂れてた奏斗の手が、暫くしてオレの背中を握り締めたから。



 それでいいやと、思った。





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