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揺れる
「別れた理由」*奏斗
しおりを挟む「……中学の卒業式で告白して、高二までつきあったって言ったよね?」
「うん」
「和希が、引っ越す事になったんだ。高二の時」
「そこまでは聞きましたよ。幼馴染なんでしょ?」
「……うん」
頷いて、少し黙る。
「……最初は、離れても、別れないって、言ってたんだ」
「ん」
「だけど――――……引っ越す前の日に……別れたいって言われた」
「……うん」
四ノ宮がオレをじっと見つめる。
「……好きすぎるから――――……もう、別れたいって」
そう言ったら、四ノ宮は少し瞬きをして、それから、ん?と首を傾げた。
「好きすぎる?」
「……うん」
「……別れる理由がそれ?」
「――――……うん」
しばらくの間、四ノ宮は黙って、考えてる。
オレは、続きを言おうと、口を開く。
「……オレのことが、好きで、しょうがないって……」
「――――……」
「でも男同士で――――……それを、誰にも言えないって……」
「――――……」
四ノ宮は考え深げにオレをじっと見つめたまま、何も言わない。オレは少し視線を外して、前を向いた。
「……オレのことが大好きで、オレとそうなったけど……やっぱりずっとこのままは、無理だって。転校が良い機会だって、言われた」
「……うん。それで?……奏斗は何て答えたの?」
「……最初は――――……好きなら、何でって……言ったけど……」
「――――……」
声が、震える。
――――……一番思い出したくなくて、一番、考えたくない記憶。
……人に話す日が来るとは思わなかった。
「……泣くんだもん。和希が。……オレの事、めちゃくちゃ好きだって……多分ずっと好きだけど別れたいって――――……今しか別れられないから、ここで、別れてくれって。大好きなのにごめんって」
どう堪えても声が震えて――――……。
「……オレと居ても、将来がないって。子供も作れないし、人に、男同士だって、知られたくないって……ごめん、続けられないって。……そんなのもう……受けるしかなくて……分かったって、言って……」
涙が浮かんで――――……あ、やば、と思った瞬間。
四ノ宮に腕を引かれて、ぎゅ、と抱き締められた。
「……うん」
それだけ言って、オレの頭に置いた手で、ポンポンと、撫でてくる。
「……よく、分かんないまま……最後にキスしていいか聞かれて……別れる時、キス、したら――――……父さんに見られて、家ん中、最悪になるし……」
「――――……ん……」
四ノ宮は余計なことは、言わずに、ただ頷く。
「……あんなに、お互い好きでも、終わるんだと思って……」
「――――……」
「……だからもう……好きとか……なくていいって、思って……」
「――――……ん」
零れた涙は、四ノ宮の服に落ちていって、消えていく。
「……別れてからもずっと……何でって、思ってたんだ、オレ」
「――――……」
「転校が決まった時は、絶対別れたくないって言ってたのに……何でだったんだろうって……」
「……うん」
「……そしたら――――……さっき大地が電話、してきて……」
「電話? さっき帰ってから?」
「……うん」
少し離されて、顔を見つめられる。
さっき大地に聞いた話を、四ノ宮に、伝える。
「――――……ふうん……バレてたんだ、あいつに」
「……そうみたい……」
「――――……それを、和希に言ったのか……」
四ノ宮はため息交じりにそうつぶやく。
「……大地にバレたって思ったら……きっと、想像してたより、すごく嫌で――――……だから続けるのは無理だって、結論になったんだろうなって……なんか、さっき納得して……」
「――――……」
「……納得は、したんだけど――――……なんか……すごく……」
「……うん」
「すごく――――……」
何か言葉が見つからなくて。何も言えないでいると。
四ノ宮は、ん、と言って。そのまま、またオレを抱き寄せた。
「分かったから、もう、いいよ」
そう言われて。
……もういいよ、と言われて。ぎゅう、と抱き締められた。
よく分からないけど、なんだか、すごくほっとして。
涙がまた滲んできて、瞬きを繰り返している内に、ぽろ、と零れた。
きつく抱き締められているから。
泣いてるのは、見られなくて済むな、と、ぼんやり思う。
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