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揺れる

「手の温度」*奏斗

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 しばらくそのまま動かずに、ぼー、としていた。

 もう今更で。
 大地が知ってたのには驚いたけど……。

 さっきご飯食べてた時もカズのこと話し始めてたっけ……。
 話そうとしてたのかな。
 オレが途中で、断ちきっちゃったから話せなかったんだろうな。

 電話で良かったかも。動揺してたのも見られなくて済むし。
 オレさっき、普通に話せてたよな。もう今更大丈夫って、ちゃんと言えてたよな……。


 オレと和希の事……他にも知ってた奴、居たんだろうか。
 バレないようにすごく気を付けてたのに、何で大地には、バレたんだろ。

 ――――……大地に突っ込まれて、和希が固まってたって。


 ……他人に言われて――――……オレとの関係。
 マジで、考え直したのかなぁ……。

 ……まあ。もう別に。今更だけど。


「――――……」


 冷たい手を握り締めたその時。

 インターホンが鳴った。
 下のエントランスからじゃなくて、ドアの前の。

 ……つか、もう、四ノ宮しかいないけど。
 そのまま出ないでいると、こんこんこんこんこん……と小さいノックの音。


 このまま、返事しないで過ごして、寝てたって、明日、言おうかな。

 玄関が見える所で、立ち止まって、そうしようかなと考えていた時。



「奏斗、早く開けて」

 ノックが止まって、四ノ宮の声がした。


「買っといたから、アイス色々ありますよ? 食べてていーから」

 なんか、笑いながら、そんな風に言ってる。

 ――――……オレが聞いてなかったら、そんなのただの独り言じゃん。


 もー、なんなの。
 ……ほんと。


「――――……」


 寝たことにして、無視すれば。
 一人で居られる。

 そう思うのに。オレは、静かに、玄関まで歩いた。
 そうして、なぜか、手を伸ばして、鍵を開けた。

 すると、ドアがすぐ開いた。


「来るの遅いから迎えにきちゃったじゃん」

 そんな事を言って、苦笑いを浮かべながら四ノ宮が入ってくる。
 オレの顔を見ると、急に真顔になって、首を傾げた。

「――――……何。どうかした?」
「……何、が?」


「――――……」


 四ノ宮が、む、とした顔をしたと思ったら。
 オレに近付いてきて、手首を掴んできた。

 引っ張られたオレは、四ノ宮に抱き締められた。


 オレはいつもより一段高くて。いつもみたいに埋まらないで、ちょうど四ノ宮の肩辺りに顔があって。


「……な、に……」

 そう言って、四ノ宮の顔を見ようとするのだけど、四ノ宮の手がオレの後頭部に回って、ぐい、と肩に押し付けられる。



「――――……オレんち、行こ?」

「――――……」



「奏斗、手ぇすげえ冷たい。温かいもん、いれてあげるから。行こ」



 ……なんか。
 喉の奥が、痛い。

 よく分かんない涙が、薄くにじんで、自分に驚く。


 そのまま、かたまっていると、涙はそのまま、落ちる事なく引いた。
 ――――……しばらくして、四ノ宮が、オレを少し離して、オレの背中に触れて、軽くとんとんと叩いた。


「髪まだ濡れてるしドライヤーかけてあげるから。電気消してきて。スマホだけでいいでしょ、持ってくんの」
「――――……」


 言われるまま、スマホを持って、電気を消して、玄関に行くと。
 いつも置いてある場所からオレの家の鍵を持って、四ノ宮がオレの腕を引いた。

 オレの部屋の鍵をなぜか四ノ宮が閉めて、そのまま、また腕を引かれて、隣の四ノ宮の家に押し込まれる。四ノ宮の玄関にオレの鍵が置かれるのを、ぼんやり見つめていると、四ノ宮がオレを見て笑いかける。


「ドライヤー持ってくから、リビング行ってて?」

 部屋に上がったオレの背中をぽんと押してくる。押されるままにリビングに入って、最近いつもドライヤーをかけられている椅子に座った。


 ていうか――――……最近いつも。とか。
 

 へんなの。ほんとに。



「――――……」




 ……なんか、少しだけ。



 ――――……手の温度が戻ったような、気がする。


 




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