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揺れる
「依存?」*奏斗
しおりを挟む「今ほんとにオレのこと、見えてなかったの?」
「うん。ぼーっとしてた」
「あのさ、ちゃんと周り見て歩いてくださいよ。変な人が居ないかとかも、ちゃんと見て?」
「何言ってんの?」
「目ぇつけられたら困るでしょ」
「……オレ、ほんと、男なんだけど」
そう言いながら、四ノ宮を見上げる。
……つか、こいつら、ほんとにでっかいな。
「……何でそんな背ぇでっかいの?」
「え?」
「何食って生きてきたの?」
「何食ってって……普通の物食べてましたけど……」
「絶対嘘。すごい栄養あるもん、食べてたのかな」
「――――……」
クッと笑いながら、四ノ宮が、オレの腕を引いた。
「まあとにかく、帰りましょう」
「言われなくても帰るけど」
四ノ宮の隣に並んで、歩き出す。
「生姜焼きの匂い、しますね」
「え、そう?」
「うん」
「今日は、四ノ宮、作んなくて済むね」
そう言ったら、四ノ宮は、じっとオレを見つめる。
「オレ、作るの全く苦じゃないけど?」
「……あ、やっぱり?」
「やっぱりって?」
「なんとなくそんな気がしたから」
ふ、と笑ってしまうと。
「奏斗が美味そうに食べるから、ほんと全然良いんですけど。つか、むしろ今日食べさせられなくて、少し嫌かも」
「――――……」
さすがにそのセリフには、びっくり。
「……オレを餌付けして、どーしようとしてんの?」
半分本気でそう聞いたら。四宮は、ははっと笑った。
「……そうですね。どーしようかな」
なんて楽しそうに言ってる。
……あ、そういえば、怒ってるのは、解除してから、来てくれたんだな。
良かった。
と、思っていたら。
「とりあえず、正門前で抱きしめられる、とかは、やめさせたいですね」
あ。
……やっぱりまだ怒ってる。
約束が違うじゃんか―。
見上げると、でもにっこり笑ってる。
――――……っ。
にっこりしてたって、怒ってるのと変わんないんだからな!
むしろ、にっこりのが怖いんだよ!
――――……心の中で言いながら、ジト目で、でっかい男を、見上げる。
「……さっきの奴って、高校の後輩?」
「うん」
「部活とか?」
「そう」
「知らなかったの? 大学に居るの」
「うん」
短く答えていくと、ふーん、と言って、少し黙る。
「奏斗のこと、すっげー好きそうだったけど」
「……まあ。懐いてくれてた感はあるけど……」
そう言うと、四ノ宮は、ふーとため息をついた。
「――――……つか、腹へったなー……」
急に話題を変えてそう言う。
何となくそれ以上突っ込まれたくなかったから、ほっとする。
「うん。帰ったら、ゆっくり食べて」
「何その言い方。うちに来ないの?」
「うん。すぐシャワー浴びたいし。なんか疲れたからゆっくりする」
「うちでゆっくりしなよ。シャワー浴びたら、来て」
「――――……」
四ノ宮の言葉に、少し先の地面に視線を落とす。
――――……なんだかな。
……あんまり、依存、したくないんだよな……。
ここ数日、四ノ宮に頼り過ぎというか。なんか、やっぱりちょっとおかしいし。
さっき、四ノ宮の顔を見て安心したとか。
……絶対ヤバい気がする。
誰かにもう執着はしないって。そう決めたのに。だから、一回限りって決めてんのに。
――――……このまま、四ノ宮が居ることが当たり前になると、困る。
「オレ、今日は一人がいい」
「またそれ? ……あのさあ、奏斗」
「――――……」
呆れたように言う四ノ宮を見上げると。
「一人で居ても楽しくないでしょ?」
「……ゆっくりできるし」
「オレに寄っかかってゆっくりしてればいーじゃん」
「……それ、なんか、色々葛藤があるから。心からゆっくりしてないし……」
「何、葛藤って」
「……オレ、なにしてんだろっていう葛藤……」
もう何て言っていいかよく分からず、そこで言葉が途切れる。
マンションについて、エレベーターに乗って、無言のまま、階に着く。部屋の前で、オレは四ノ宮にお弁当の袋を渡した。
「ん。食べて」
ありがと、と言ってそれを受け取って、四ノ宮はまっすぐにオレを見つめた。
「オレもシャワー浴びとくからさ。弁当一人で食べんのつまんないし。来てね?」
「――――……」
――――……一人で食べるのとか。全然平気そうな奴なくせに……。
断りにくいとこ、ついてくるっていうか……。 ズルいんだよな……。
「分かんない。そのまま寝ちゃうかも」
「待ってるからね」
ちら、と四ノ宮を見て視線を合わせて。もう、何も言わずに、そのまま自分の部屋に入った。
閉めたドアにカギをかけて、寄りかかり。
なんとなく。ため息を、ついてしまう。
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