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揺れる

「普通に話せる」*奏斗

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 一緒に駅前に向かいながら、オレは、一番気になってる事を先に言った。

「あ、お前、今度抱き付いたら、ほんと怒るからな」
「だって、すげー感動だったんだもん、カナ先輩に会えて」
「……つか、ほんとに何で探してたの?」

「何でって、さっきも言ったけど。会いたいからに決まってるでしょ」
「――――……ほんと、お前って……」

 んなことばっかり言ってるから、超懐いた大型犬、とか言われるんだよ。
 もう、今はもっとデカくなってんてのに、言ってることがそのまんまって、どーなの。

「抱き付くのは禁止。良い?」
「ちぇー」
「ちぇーじゃないよ。正門前で抱きつくってほんと、大地、どーなってんの」
「あー、それはすみません。目立ちまくってましたよね」
「分かってんなら、すぐ離せよ」

 おかげで四ノ宮に見つかったじゃんか……。
 ため息を付きたい気分。

「だって、ほんとにマジで嬉しかったんですって」
「……もう落ち着いたから、大丈夫だよな?」
「まあ……」

 頷く大地を見上げて、ん、とオレも頷いた。


 ――――……はー。
 四ノ宮の最後の顔……。

 ……オレ、さっきから同じこと何度も考えてるけど……。

 ……別に悪い事は、してないよね。
 オレから抱き付いたならまだしも。

 抵抗してたよね、オレ、確か。
 責められることもないよね。

 ……と思うんだけど、どうも、四ノ宮の事考えると、なぜか後ろめたいし。
 はー。意味わかんね……。


「カナ先輩」
「んー?」

「さっきの、誰?」
「さっきのって? あ、さっき最後まで居た奴?」

「うん」
「んー……ゼミの後輩」

 それが一番、正しい関係の名前だよな。
 そう思って答えると。

「ふーん……」

 言いながら、小さく何度か頷いてる大地に、首を傾げてしまう。

「何で? 知ってる?」
「いや、知らないですけど。見たことはある」
「どこで?」
「入学式の、新入生代表」
「え? そうなの?」
「うん、多分。あの顔、似た奴は居ないでしょ。オレ前の方に居たから、近くで見てたし」
「――――……へー」

 はー、そんなことも、やってたんだ。へー。
 ……ほんと、嫌味だな。

 あーそういえば小太郎とかが言ってたような言ってないような。
 王子エピソードは要らないと思ってたから、あんまり真剣に聞いてなかった。


 ……ますます宇宙人だっつの。


「……彼氏じゃないですよね?」
「……は?」
「さっきの奴」
「……え? 彼氏? 誰が?」
「さっきの、あいつ」
「……誰の?」

 あまりにオレが険しい顔で聞いたせいだと思うけど。
 大地が可笑しそうに笑った。

「カナ先輩のって意味で聞いたんですけど、違いますね」
「……当たり前だろ」

 何言ってんだ、ほんとに。
 ……彼氏って。
 何それ。オレが男と可能性あるって知ってんの? って、そんな訳ないよな……?

 頭の中で色んな思いが巡り巡っていると。
 大地がクスクス笑った。

「だって、オレがカナ先輩に抱き付いてたら、奪われたから」

 ……あ、それでふざけて聞いただけか。何だ。……そりゃそうだよな。

「関係ないよ。オレが苦しがってたから助けてくれたんだろ。お前、でっかすぎ」
「先輩は全然変わんないですね」
「どういう意味?」
「褒めてるんですけど」
「そーか?」

 そんな会話をしながら、駅前到着。自然と止まって、辺りを見回した。


「大地、何食べたい?」
「先輩は? 何が良いですか?」

「いいよ、お前の好きなので」
「あそこの定食屋行きます? 結構美味かったんで」
「うん、いーよ」

 大地が指さしたビルの二階に向かって歩き始める。


「――――……元気でしたか? 先輩」

「うん。元気だったよ? 大地は? ……って元気そうだよな」


 すくすく育ってるし、と追加しながら笑うと、大地も笑った。


 ――――……一年以上会ってなかったけど……。

 敢えて関係を断った手前、すごく、気まずい気持ちでいたんだけど。

 相手からしたら、ちょっと会えなかった、程度なのかな。


 思ってたより、普通に話せるんだなあと思うと、嬉しい気もする。


 



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