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揺れる

「なんか最悪」*奏斗

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 その後、小太郎達も合流して、皆でたわいない話をする。
 楽しい。
 人と話すのも好きだし、友達と遊ぶのも好きだ。

 高校までは、和希がそこにずっと居た。
 転校する事になって、別れて、そこから突然和希が居なくなった。

 最初は、ほんとに人と絡むこと自体辛くなってて――――……もう一生引きこもろうかと思った時もあったけど。
 やっぱり、オレ、一人じゃ居たくなかった。

「ユキ、来週、どーやって行く?」
「ん?」

 不意に言われた小太郎の言葉について行けずに、首を傾げる。

「ゼミ合宿。現地集合じゃん? 電車?」
「まだ考えてなかった」

 そう答えると、小太郎がそうだよな、と笑う。

「翠と昨日どうしよっかって話しててさ」
「そうだね。どーしよっかなぁ……」

 言いながら、ふと、四ノ宮が浮かんだ。
 四ノ宮は、どうやって行くんだろ。

 ――――……一年同士で行くかな。

 まだ先だと思っていたけれど、もう来週の土日だった。
 椿先生と、一年、二年、それから手伝いとして三年生で来れる人が参加する合宿。

 本当は夏休みにやるゼミが多いけど、帰省する生徒も多いし、別にいつやったっていいんだし、と椿先生が決めたみたいで、去年も今頃だったらしい。今回オレは初参加。

「ちょっと考えとくね」

 小太郎は、OKと言って、笑顔。
 
 どうせ四ノ宮は一年同士で行くだろうけど。
 ……万一、後でなんか言われても面倒だし。聞いてからにしよっかな。

 そんな風に思ってしまう自分を少し不思議に思うけど、気になるからしょうがない。


 その後、昼食時間が終わって、三限、四限の授業も終わった。

 結局、誰とも夕飯の約束、してない。
 ――――……多分、ここに居るメンバーだったら、ご飯食べにいこう、と言えば、絶対誰かは快諾してくれると思う。

 ……結局行かなかったんだねと笑われるのもなんか癪だし、やっぱり行こうかな。……うん、そうしよう。
 そう思って、皆に向けて、なあ、と声を出しかけた時。

「カナ先輩っ?」

 後ろから腕を掴まれて、そう呼ばれた。


 カナ先輩?
 ――――……この大学に、オレを「カナ」で呼ぶ奴は、居ない。
 四ノ宮が最近おかしくなった位で――――……。

 誰?と思って、振り返ると、そいつは真正面からオレの顔を確認すると、めちゃくちゃ嬉しそうに笑った。

「やっぱりカナ先輩……!」
「――――……」

「やっと会えた」

 こんな、帰る人の多いこの時間の正門前。
 オレは、ガタイの良いそいつに、いきなり抱き締められた。

 周りで色んな人がざわついた気がする。

「だ……いち??」
「そう! 覚えててくれてありがと、カナ先輩」

 そんな台詞に、忘れる訳ないし、と思ってしまう。

 いっこ下の、高校のバスケ部の後輩。
 江川 大地えがわ だいち
 背が高くて、バスケがうまくて、かなり頼りになるチームメイトだった。
 ……なんかやたらオレに懐いてて、まあ……仲は良かったけど。

 スマホを新しくしてからは、当然、こいつとも連絡を取ってなかった。

「……く、るしいってば……」

 相変わらずでっかい……ていうか、もっとでかくなったような……。

「ユキー、大丈夫ー?」
「変質者なら助けるぞー」

 一緒に居た友達らが苦笑いで聞いてくる。

「あー、ごめん……高校の後輩。……大地、ちょっと離れろよ」

 そう言うのに、あまりにぎゅーぎゅー抱き締められて、半ば抵抗も諦めていると。


「――――……先輩?」

 この。声。は。
 うんざりしながら、大地の腕の中で、声の方を向く。

 だー……。
 四ノ宮……。



「……正門の真ん前で、何してんですか?」



 にっこり、笑ってるけど。……怖い感じで。


 ――――……よく分かんないけど。

 なんか。最悪。そんな気がする。
 




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