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至近距離で
「綻ぶ」*大翔
しおりを挟む朝、目覚めてすぐ、スマホを手に取った。
六時半か。――――……既読、ついてるけど、返事ない。
どうすっかなあ……。
――――……って、決まってるか。
すぐにメッセージを入れる。
「おはよ。今から作るから。いつでも来ていいよ」
そう送ってしばらくそのまま見ていたけど、既読はすぐはつかない。
とりあえず作るか。来なくても、運んじまおう。
着替えて準備してから、朝食の準備を途中まで進めたところで、スマホが震えた。奏斗からの電話だった。
「もしもし?」
『あ。四ノ宮? ……おはよ』
なんか、少しの時間、離れただけなのに、声が嬉しいとか。
意味が分からない感情に支配されながら。
「おはようございます。……寝れました?」
『うん』
「もう来れますか?」
『つか……いいの?』
「オレ良くなかったら言わないんで」
『……』
「もう二人分用意途中なんで、来てくれないと困るんですけど」
『……分かった。行く。コーヒーは淹れた?』
「あ、まだです」
そう答えると、奏斗は『じゃあ淹れて持ってく』と言った。
「分かりました」
『じゃ後で』
電話が切れる。
――――……コーヒー淹れて持ってく、か。
スマホをカウンターに置く自分の顔が、綻んでることに気付く。
コーヒーを淹れるのに少し時間かかるよな。
作り終えとこ。
来るって決まると、めちゃくちゃスピードアップしてるし、と、我ながら苦笑い。
ほとんど用意が終った所で、チャイムが鳴った。
急いで玄関に向かって、鍵を開けて、少しドアを開けた。
「――――……おはよ」
入ってきた奏斗が、オレを見上げて、そう言う。
「うん。おはよ。入って」
「ん。……お邪魔します」
遠慮がちに入ってくるので、「もうすぐ出来るから早くコーヒー注いで?」と促すと、うん、と笑う。
並べて置いたマグカップに、奏斗がコーヒーを注ぐ。
「いー匂い」
「――――……うん。そだね」
オレが言うと、ちら、とオレを見てから、唇だけで微かに笑う。
「良く眠れた?」
そう聞くと。
「うん」
と答えるけど。
なんか眠そう。
「……ほんとはオレが居なくて寂しかったんじゃないの?」
「寂しくないし」
少し睨まれて、ものすごく嫌そうにべー、と舌を出される。
――――……なんか……ほんと、笑ってしまう。
オレは、出来た朝食の皿を二つ、テーブルに運んだ。
「奏斗、コーヒー、牛乳入れる?」
「うん」
冷蔵庫から牛乳を出して、奏斗のマグカップの隣に置くと、ゆっくり注いでる。その様子を見ながら考える。
――――……奏斗って呼ぶのは、いいのかな。
もう呼んでいいって言った昨日は、終わったけど。
そう思いながら、でも余計なこと言って、呼ぶなって言われるのもやだしな。と、スルーしようと思った瞬間。
奏斗は隣に居るオレを、じっと見上げた。
「ずっとそれで呼ぶつもりな訳?」
なんかもう、今にもため息つきそうな、ちょっとムッとした表情。
「ん。そう」
まっすぐ見つめ返して頷くと、案の定、軽くため息をついた。
そのまま何も言わず、コーヒーを二つ持って、テーブルに向かう。
この週末、何回か奏斗が座った方に一つマグカップを置いて、向かい側に、コーヒーを置いてくるけど。
オレは奏斗の隣に座って、コーヒーを引き寄せた。
「……四人掛けで、二人で食べんのに、隣っておかしくない?」
「別に。カウンターで食べてると思えば?」
「カウンターは前に空席ないじゃん。変」
「細かいことはいーから。早く食べよ?」
オレがそう言って、頂きます、と言うと、奏斗もまた息を吐きながら、座った。
「――――……頂きます」
「どーぞ」
なんだかんだ言って隣に座ってる奏斗に、視線を流す。
「――――……」
ぱく、と食べた瞬間。うま、と、顔が綻ぶ。
「美味し?」
「うん」
「……中身は違うって言っても、さすがにホットサンドばっかりだからさ、次は別の何か作るよ」
「全然これでいいけど」
頬張りながら言う奏斗に、ふ、と笑んでしまう。
「そんな、美味しい?」
「うん」
そんなに美味しいって言われると。
こっちは、めちゃくちゃ作り甲斐があるんだよなー……。
美味しそうに食べてる姿を見ていたら、そんな風に思って、微笑んでしまう。
(2022/6/27)
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