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至近距離で

「触らないであげる」*大翔

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 奏斗の家、出てきた。


 ほんとは、無理やりでも、連れてきて、ベッドで抱き締めて寝たかったけど。家に入るために、言ってしまった言葉が、邪魔をした。

 ――――……帰ってほしいなら帰る、なんて言わなきゃよかった。 
 もう二度と言わねえ。


 歯を磨いて、少しの間だけリビングで過ごした。

 でも――――……多分もう来ないと思う。
 自分からは来ない。

 もうなんか、何もする気が起きなくて、オレは、ベッドに入った。


 一人になると、考えないようにしていた夕方の事が、浮かんでくる。


「――――……」



 一緒にワインを買って、リクさんに渡しに行った。
 
 奏斗に飛んでくる視線にムカついて、もう一刻も早く出ようと思ってるのに、リクさんがお礼に飲み物を奢ってくれる事になってしまった。

 ……帰れねーじゃん。
 つーか、一人。ものすごく、奏斗に視線を送ってくる奴が居るし。何あいつ。あー、早く、連れて出たい。

 そんな風に思っていると、リクさんが、アイスティーを持って、テーブルに置いた。

 マジで、一気飲みして帰りたい……。
 思った時。

「あ、ユキくんさ、カウンターのあの子のとこ行って、摘まむもの選んできて? 今頼んできたから」

 リクさんがそう言って、奏斗をカウンターに向かわせた。

 ――――……何か変だなと思った。
 だって、今、アイスティー取りに行ったんだから、別にトレイとかにのせれば一緒に持ってこれただろうし。

 ていうか、この場合だと、オレが取りに行って、奏斗がリクさんと話すだろ、普通。奏斗に取りに行かせる意味が分からない。そう思った時。


「……四ノ宮くんさ」

 案の定、少し声のトーンを落として、オレを見る。


「――――……やっぱり、我慢、出来なかった?」

 じっと、オレを見据えた上での言葉に、オレは、咄嗟に答えられず。

「――――……何がですか」

 なるべく感情を押さえて答えたけど。
 リクさんは、少し黙ってから、ふ、と笑った。

「あー、もういいや。分かった」

 ……何が分かったんだ、と思うけど、なんだか全て悟られてる気がして、ほんとにこの人謎だなと、眉を寄せてしまう。

「――――……四ノ宮くんは、男に興味、ないんだよね?」
「――――……」

「無かったのに、無理だった。――――……まあ、しょうがないよね。ユキくん、可愛いもんね」
「――――……」

「――――……まあでも、そこはさ。事故みたいなもんだと思いなよ」
「――――……」

 何が言いたいのか、真意をくみ取ろうとと、じっと見つめた。


「しょうがないよ。そこらの女の子より可愛いし。それ以前から、四ノ宮くんはユキくんを大事に思ってたんだろうし。それが乱れてたら、まあ、衝動的にっていうのも少しは分かる。――――……けどさ」

「――――……」

「……ユキくんが、ここでしてた事――――……知ってるんだよね?」

 返事はしていないが、リクさんは、勝手に話を続けていく。

「……詳しく知らないけど、きっと、それをするだけの理由があるんだよ、ユキくんには。あんな感じの子が、一夜限りの相手と、しかも一度だけで二度目はない、そんな関係しか持たないなんて、絶対訳があると思う。……知ってる?」
「……いえ」

「……四ノ宮くんは、ノーマル、でしょ。男と恋愛関係なんて、無理じゃないの?」
「――――……」

「……今一時の感情で、ユキくんと居て、いつか捨てるならさ。もう二度と、触らないであげてほしいな……」

「――――……」


「……オレが言いたいのは、それだけ。どうするかは、もちろん、四ノ宮くんが決める事だけどね」


 ちょうどそこに、奏斗が戻ってきたから、話は終わった。
 ……まあ、もともと、そこで終わらせていたんだと思うけど。



 リクさんとのそんな会話を思い起こすと、何だかものすごく複雑な気持ちになる。


 ――――……触らないであげてほしい、とか、言われたけど。

 その意味も、少しは分かるし、考えたけど。



 ……奏斗が目の前に居ると。
 キスして、触れたくなる。

 
 そのまま、抱き締めて、オレのとこに無理やりにでも、引っ張り込んで。
 触れていたくなる。



 今も。本当は、そうしたいけど。 


 無理矢理しすぎるのも――――……と、少し引いたけど。

 これが正解なのかは、分からない。


 オレが何がしたいか聞いてたけど。
 こういうことは、もうやめようって、言ってたけど。



 ――――……受け入れられる気は、全然しない。
 



 絶対、奏斗からはオレの所に、来ない。
 だから今日は、もう、このままなんだろうな。

 分かってたけど。
 また一人で、小さくなってたりすんのかと思うと。



 なんか。ほんとに、よく分からねー気持ちになる。





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