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至近距離で

「もともと」*奏斗

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 自分に飛んできてる視線はいーのかな。
 そんな風に思って。

「……四ノ宮のこと見てる子達は? いーの?」

 そう言うと。「は?」と、また不機嫌。

「……オレが今、あんた置いて、そっちに行くと思ってんの? で? あんたは誰かとまた、行く訳?」


 うわー……。
 今度は、めちゃくちゃ分かりやすく、不機嫌になった。


「行かないから。……なんでそんな急に怒んの」
「何でって――――……はーもう……」


 大きなため息ついた四ノ宮は、また手にスナックを持つと。

「ん」

 と言いながら、また、オレの口の前に出してくる。
 だからー、あーんしてるみたいで、目立つ……。

 みたいじゃなくて、そのまんま、あーん、か……。

 思いながらも。
 もうなんか諦めてるオレは、口少し開けてしまう。


 ふ、と笑んだ四ノ宮の顔が目に入りながら。食べさせられて。
 ちょっとため息。


「……四ノ宮、オレ、彼女じゃないかんね」
「分かってるけど。奏斗、女じゃないじゃん。彼女じゃないでしょ」
「……そういう事じゃなくて」

「言っとくけど、オレ、彼女にこんな事した事ないけど」
「……」

 そういう事でも無くて。
 ――――……自分が何を言いたいんだかも、よく分からなくなってくる。


「早く帰ろ。はい飲んで、食べて」

 次々言われる言葉に、はいはい、と頷きながら。

 もう、意味の分からない、変な後輩が。
 超超目立ってるのを横目に、アイスティーを流し込んだ。



「あのさ、奏斗」
「ん?」

 ……完璧に、スムーズに、奏斗って呼ばれてるけど。
 ――――……そっちも気になりながら。

 急にトーンを落とした四ノ宮に、首を傾げてしまうと。

「あんまりすぐに、見ないでね」
「え?」

「見てない振りで、ゆっくり見回す感じで見て」
「……うん。何を?」

「――――……奏斗の右後ろの辺りに居る、黒のシャツ着た男、知ってる奴?」
「――――……」


 すぐ見たい気もしたけど、言われた通り少し時間を置いてから。
 何気なく、周囲を見る感じで、視線を止める事なく、確認。


 ――――……あ。

 視線を前に戻して、スナックとは違う皿に乗ってた、ナッツを口にする。


「……うん、知ってる」
「――――……ヤったことある?」

「……ある」

「――――……一回だけって、言ってある?」
「ある。……全員に言ってる」

  四ノ宮はオレを見て、ふーん、と頷く。

「徹底してんね。まあそれはある意味いいのか……でも、そう思って無さそうな感じだけど」
「――――……うん」

 言った方が良いのかなあ。
 金曜の夜に、トイレでちょっと迫られた人って。

 ……でも別に。ここからしばらくここに来ないなら。
 ……四ノ宮には関係ないよな。


 …………なんか。
 今ですら、なんか、ちょっと不機嫌になってんのに。
 言わない方がいいよな。


「……なんか、よく分かんねえけど」
「ん?」

「……実際相手した奴とか見ると――――……」
「?」

「……ナニコレ。すげームカつくんだけど」
「――――……」

「何でだろ。これ。今更」

 うーん。普通ならそういうのって。嫉妬かなーと。
 ……妬いてるのかなと思うけど。

 四ノ宮はオレを好きな訳じゃないだろうし。
 ……だって、オレに恋人出来たら渡すって言ってたし。


「……もともと四ノ宮はやる事とか、言う事とか、全部よく分かんないから」


 オレがそう言うと。
 四ノ宮はオレをじっと見て。


「……その言葉、そっくりそのまま返していい?」

 そんな事言いながら、クスクス笑ってる。
 なんか、ムッとして、四ノ宮をちょっと睨むと。



「――――……睨んでも、可愛いけど」


 ふ、と優しく笑んで。
 オレの頭、撫で撫でしてくる。

 あんまり甘い感じのセリフと仕草に、ぽかん、としてると。


「……視線がすげえムカつくから。これで排除できるかなと思って」


 こそこそと、囁かれる。
 この囁き方だって、絶対わざと、妖しくしてる。


 お前を見てる女の子達が、何やらキャーキャー言ってるし。


 ほんとに意味が分からない。








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