上 下
153 / 551
至近距離で

「嬉しい……?」*奏斗

しおりを挟む

「奏斗、こっちは?」
「ん……」

 なんかすっかり。普通に呼び捨てされてる。


 ――――……めちゃくちゃ触られたあの後。一緒に昼ご飯を作って、食べて、片づけて。
 コーヒー飲んでゆっくりして。

 一本、映画を一緒に観た。
 タイトルを聞いた事もない、恋愛映画。

 学園中の女の子にモテてる男の子を落とすために、普通未満だった女子が、奮闘して、可愛くなっていって、好きになってもらおうと、めっちゃくちゃ元気に頑張る、ラブコメもの。まあ半分ギャグみたいな。

 何も考えずに、可愛いなーって、思える映画で良かった。

 けど。――――……最初は離れて座ってたのに、四ノ宮に引っ張られて、また、膝の間に座らされた。

 ……よくわかんね。
 オレの定位置を、四ノ宮に寄りかからせる所、にしようとしてんのかな。

 ――――……何がしたいのか、よく分かんない。
 オレも。どうして、もっと強く、嫌だって、言わないのか。

 ……分かんないことばっか。


「奏斗?」
「……え。あ。ごめん。何?」

 驚いて、四ノ宮を見上げたら、四ノ宮は、クスクス笑って。

「白だと、ここらへんが美味しそうかなって聞いてたんだけど」

 四ノ宮が指さすワインに視線を向ける。

「うん……」

 映画を見た後、リクさんに渡すお酒を買いに、大きい酒屋に来ていた。
 クラブではリクさんはお酒を飲まないので、どんなお酒が好きなんですか、とか話した事があって。白ワインが好き、と言ってたから、それを吟味中、だった。


「飲まないから分かんないよね……どっちかなあ」
「じゃ店の人に聞いてきますね」

 そう言うと、四ノ宮はさっと歩いて行って、店員の女の人に話しかけてる。

 ――――……なんか。ああやって。知らない人と話してるあいつは。
 やっぱりオレと話してる時とは、違う。

 王子ね。
 ……ま、分かる。

 顔がね。整いすぎなんだよな。
 育ち良さそう、って、思うし。がさつな感じとかは一切ない。

 なんか綺麗な部屋に住んで、何不自由なく暮らしてるんだろうなーと、感じるっていうか。まあ実際、部屋見ても、そのまんまのイメージだけど。

 まあ。「王子」って言いたくなる気持ちも、分かるけど。

 四ノ宮が店員と話しながら戻ってきて、あれやこれやと説明を聞いてる。
 オレもそれを聞きながら、ワインを眺めていて。

 四ノ宮が礼を言うと、店員は超笑顔で、離れて行った。

「んー。どうしよっか。こっちか、こっち辺り? ちょっと高いの一本のが良い?」
「うん」

「じゃあこっちね?」
「ん」

 二人でお金出し合って、会計をして、簡単にプレゼント用に包んで貰っている間。


 じっと、四ノ宮を見つめる。

「ん?」
「ほんと、何か……」
「うん?」

「……お前、オレのそういうのに、関わんない方がいいと思うんだけど」

「――――……何それ」

 しばし沈黙の後。四ノ宮が、クスッと笑う。


「オレ、もう、すっげー深く、あんたと関わってんだけど」
「――――……」


 す。っげえ、深く、って……。

 めちゃくちゃ意味深な言い方で、囁かれて、固まっていると。


 あたりを一瞬見回した四ノ宮が。
 オレの背筋から腰に、す、と指を這わせた。

 もう、瞬間的に、びく!!と震えたら。



「……どーなるかも、かなり知ってんのに。今更すぎ」

 
 クスクス笑われて。また囁かれて。


 ビクついた自分も恥ずかしいし、
 四ノ宮のセリフの意味考えても恥ずかしいし、
 なんかすげームカつくし。

 色んな意味で顔が熱くなって。




「……ほんとに嫌だ、お前」

 言うと、四ノ宮は、ふ、と笑って、オレを斜めに見下ろして。


「……奏斗がオレを、嫌いじゃないだろうってのは、分かってるし」
「……っもー、奏斗、呼ぶな」

「今日一日呼んでいいっつったじゃん。慣らす為に、今ひたすらめちゃくちゃ呼んでんだから、慣れてよ」


 ひたすらめちゃくちゃ呼んでるって……。


「……無理だったら、今日でやめるんだからな」
「慣れてもらうし。奏斗奏斗奏斗奏斗」

「……っっなんなんだよ、お前」


 こそこそと喧嘩をしていると、店員が、「お待たせしましたー」とすごい笑顔で近づいてきた。


「ありがとう」

 と。店員の女の子に、無駄な愛想を振りまいて、またしても、超笑顔で、送り出される。

 歩きだしながら。
 ちら、と四ノ宮を見上げる。


「――――……愛想笑い、ほんと威力あるよな」
「ん?」

「……簡単に虜にできるよな、四ノ宮。ホストとかになったら、すごそう」
「今度はホストときたか……。天職だったりするかな?」

「……もうテレビで取り上げられる位有名になりそう」
「んー。……でもそれ、オレは、すっげー疲れそう」

「――――……」

「……あんたと話し始めて、素で話すの楽だなって今は思ってるからさ。あんたと話す前のオレなら、何も考えずに、出来たかもね」

「――――……」

 なんか、そんな風に言われると。



 ――――……よく分からないけど。
 なんか少し。

 嬉しいような気が。するような、しないような。


 ……しないかな。うん。


 ――――……。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉

あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた! 弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

処理中です...