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至近距離で

「そのまんま」*大翔

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 先輩が何を言いたいか考え込んでるので、オレは続ける事にした。

「……相手によって対応変わるとか。カッコいい方とか。どうでもいいし。マジでそんなのいらないって思ってさ……」

 好きだった子の裏側を思い切り見たのは、あの時が初ではあったけど。 
 ……まあでも、それからも、多かれ少なかれ、色々あって。心底面倒になったっけ。


「んー……でもさ?」
「はい?」

「……その話はちょっと……タイミング悪くて聞いちゃったのかもだけどさ……子供だったしショックだったとは思うんだけど」
「――――……」

「そうはいっても、人の態度って、見た目にかなり左右されるよね」
「――――……先輩も左右される?」

「オレはあんまり関係ないかも。あんまり興味ない、カッコいいとか。……でもやっぱりさ、イケメンって奴を皆が喜んで見つめるのは、もう絶対そうじゃん? やっぱり綺麗とかカッコいいとかに憧れたりっていうのは、普通にあるんじゃないかなー……とは思うけど……」
「そうかもだけど……なんかオレの周りって、オレは王子様みたいにいつでもカッコよくて、優しくて、 何でもできてって、決めつけてさ。んで、なんか、イメージ違うって言われてばっかで……」

「――――……」

 先輩は、ふ、とオレを振り返って。
 それから、ぷ、と笑い出した。

「……あのさぁ……」

 先輩は笑いながら、オレを見上げて。


「それ自分で言うなよ。王子で、優しくてなんでもできてカッコいい、とか」

 クスクス笑ってるし。

「オレが言ったんじゃないし」
「んー……四ノ宮の周り見てると、確かに皆そう思ってそうには見えるけど……」

「……つか、こんなの先輩にしか、言わないよ。葛城以外では、初めて言った」
「ならいいけど」

 楽しそうにクスクス笑いながら、オレを見つめて。

「でも、否定しないで、そのイメージで生きてるから余計なんじゃないの?」
「……第一印象それで見られて、なんか違うって責められるのほんと、ムカつくし」
「ああ……んー……分かるけどさ」
「――――……」

「だからさ。なんか違うって言われても、こっちがオレ、って言ってればいいじゃん? それで離れる奴なんか、最初から、ほんとに仲良しじゃないじゃん? 離れても、良くない?」
「――――……」

 まっすぐな瞳でオレを見つめてそう言って、それじゃダメ?と首を傾げてくる。
 
「オレは……宇宙人で意味わかんないけど、素の方が良いと思うけど。嘘笑いしてる時より」
「……嘘笑い、見破ったの、あんただけだし」

「そうなの? あぁ、でもそっか……皆、綺麗に騙されてるもんね、王子様に」

「……先輩はオレの事王子って思わないの?」

 そう聞いたら、先輩は、じっとオレを見て。
 また笑いながら、少し視線を逸らした。

「見た目は王子って言われるの分かるけど……中身、宇宙人だし、詐欺師だし、お母さんだし。なんかほんとに意味わかんなくて、全然王子じゃないけど」

 聞いてる途中で可笑しくなって、オレも苦笑い。


「オレ、馬鹿宮だしね?」
 自らその単語を出して、笑うと。

「そーだよ」

 ふ、と先輩が笑って、またオレを見る。

 まあ正直、散々色々あったし、世の中見た目で左右されるのも知ってはいるし、その後、中学で初めて付き合った時だって、ほんと、らしくないだの色々言われたし、面倒な事は多々あった。

「もうめんどくせーから、期待に合わせて生きてきてさ。それに慣れてたのに」
「そっちの方が面倒くさいじゃん」
「もうそれを面倒だとも思ってなかったし」

「――――……そうかなあ? 思わないようにしてただけじゃないの?」

 ……そう言われて、咄嗟に返せず、止まる。

「とにかく――――……今までは、それで良いと、本気で思ってたんだよ」

 だって、誰にもバレないし、突っ込まれた事も無いし、オレ自身も、どこからどこが本気か嘘かよく分かんなくなってたし。

 葛城にだけたまに愚痴言って、もうそこだけでいいと思ってた。


  
「――――……何で、あんたは、オレを嘘っぽいって思ったの」

 今更だけど、改めてそう聞いたら。
 え。と固まって。しばらくオレをじっと見つめて。


「……そんなの、分かんないよ。そう感じただけだし」
「――――……」

「今の四ノ宮は、嘘っぽいって思ってないよ? 他の人の前でも、だんだん、そうしていけば? 素の方が、好かれるかもよ?」

 クスクス笑いながらそう言って、話終わりかな、みたいな感じで、オレから体を離して、起き上がった。


 ただでさえ、先輩とは、本音で話してて。
 ――――……その上、オレが抱くとか、他の奴のとこいくなとか、散々意味わかんない事して、意味わかんない事ばかり、言ってる自覚もあるのに。

 ……それでも、素の方が良いって。
 この人が言うのが――――……なんか、すごく嬉しい、というか。


「――――……わ……?」

 ぐい、と腕を引いて、今度は、真正面に引き寄せる。
 びっくりしてる瞳を見ながら、その唇を塞いだ。


「……っ――――……ン……?」

 めちゃくちゃ激しいキスで塞ぐと。
 すぐにぎゅ、と瞳を伏せて、オレにの腕のあたり、握り締めた。


 なんかよく分かんねーな。
 ――――……昔から色々あって。面倒になってたのに。

 先輩には、こんな昔話までして。
 ――――……何が言いたかったんだか。

 ……なんか。知ってほしくなったというか。
 オレの事。


「……ん、んー……っっ!」

 はなせー、とでも、言ってるのかな。
 は、と息継ぎをした所をまた塞ぐと、「んん」と藻掻いてる。


 離さずに、藻掻くのが止まるまで、めちゃくちゃキスして。
 涙でウルウルしてから、やっと離す。


「……っっおま、え、ほんとやだ……」

 涙を親指で拭ってあげながら、 息も絶え絶えに文句言ってる先輩を、ぎゅー、と抱き締めた。もう疲れてるみたいに、抵抗は、無い。


「……オレの事、話すから聞いてよ」
「――――……?」

 なんか腕の中で首を傾げて、オレを見上げようとしてくるけど。
 顎で何となく押さえて、そのまま。


「……先輩の事も、ちょっとずつ話して」
「――――……」


 しばらく無言の先輩は。


「ていうか……お前の話って、一歩間違ったら、自慢話だからな……」
「え?そう?」

「だって、さっきのだって、かっこいい方の四ノ宮くんならって、話じゃん」
「――――……あぁ。えーと……そうかな。オレすっげえ嫌な思い出だけど。だって、まず手紙、全否定されてるからね。キモって言われたし」
「――――……あ、そっか……」

 ふ、と腕の中で、笑ってる。

「カッコいいなら許すけど、カッコよくないならキモって。……それってほんとはキモって事だよね? 自分勝手って言われたからね、呼び出したのも」

「――――……んー……まあ。四ノ宮にとって嫌な思い出だっつーのは、分かったけど」

 クスクス笑う。


「……ちなみに、オレはさ」
「?」

「……女の子にも見える、可愛いって言われて――――…… 男子と、うぎゃーって遊んでると、そんな事しちゃだめだよ、せっかく可愛いのにーとか。わけわかんない事、言われてきてるよ?」
「――――……はは。何それ」

「……だから。皆、勝手に第一印象とか、持つって事だよ」

 クスクス笑う先輩。


「……可愛い自慢じゃないからな。ほんと意味わかんない思い出」
「それ何才位の話?」

「……中学位までは言われてたかな。高校もかな……」
「まあ。今も女装したら、バレなそう」
「うるさい。……オレ、ゲイだけど、女の子になりたい訳じゃないから。嬉しくない」
「……してなんて言ってないよ。そのまんまで――――……」


 ……そのまんまで?

 ――――……そのまんまで……。


「そのまんまで、何?」
「……いいと思う」

「……あ、そ」

 ふ、と笑ってる。




 ――――……そのまんまで。

 すげえ可愛いから。



 て。
 言いそうになったけど。

 ちょっと、やめておいた。

 


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