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至近距離で

「謎度が…」*奏斗

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 翌朝。部屋が明るくなって目が覚めたら、四ノ宮は居なかった。
 時計を見ると、もう9時近い。ちょっと遅くなっちゃったな。変な時間に目を覚ましたりしたから……。

 しかもキスされて。……抱き締められてたせいで、なかなか寝付けなかったから。


 ベッドから降りて、部屋を出る。
 四ノ宮は、キッチンで食事の支度をしていた。

「……おはよ」
「うわ、びっくりした」

 フライパンでジュージュー音を立てて焼いていたせいで、全然気づかなかったらしく。
 すぐ背後に立ってから声を出したら、四ノ宮は目を見開いてオレを振り返った。

 あは。珍しい、びっくりした顔。
 ぷぷ、と笑いながら、四ノ宮を見てると。

「も少し早く声かけて下さいよ」
「ん」
 頷きながらもクスクス笑う。


「自然と目が覚めました?」
「うん」

「良く眠れた?」
「……なんか夜中色々あったせいで、寝付けなかったけど」
「色々?」

 不思議そうな顔で見られて。

 いやいやお前のせいだよ、という目で睨んだら。
 ああ、と苦笑して。


 急に傾けられた顔が近づいてきて、驚いてる間に、キスされた。


「――――……キスしただけ、でしょ」
「っだけじゃないだろ」

 ぐい、と顔を押しのけると、四ノ宮はクスクス笑いながら、フライパンから卵を皿に移した。


「散々色んな人と寝てきた人が、キス位で狼狽えてんの、おかしいでしょ」
「――――……」

 そうだけど。
 ……でも、オレにとって、寝るより、キスの方が、なんか近いっつーか。

 それは、そういう感覚って事でしかないので、四ノ宮には分かんないのかもしれないけど……。


「……分かんないかもしれないけど……」
「うん?」

「――――……30人と寝るのと、30人とキスすんの、どっちが嫌って言われたら、キスのが、やだ」
「――――……なんですか、それ」

 ぷっと笑い出して、四ノ宮はオレを見下ろす。

 菜箸を皿に置いた、その手が、オレの頬に触れた。


「……じゃあ、キスしないから、オレと寝ましょう」
「――――……っそういうことじゃなくて……」

「……ああ、でも。キス、嫌そうじゃないから。オレとは、キスしながら、寝ましょうね?」
「…………っなんかもう、お前、ほんとに、意味が分かんない。そういうことじゃないよね、今オレが言ってるの……」

「じゃあどういうことですか? 分かりやすいと思いますけど。あんたのがよっぽど意味わかんないですよ」

「…………っ」

 オレが意味わかんないの?? 


「オレ、分かりやすいじゃん……」
「そうですか?」

 くす、と笑って、じっと見つめられる。

「……もう恋人とかそういうの嫌だから、都合がいい時だけ、関係持ってるだけ。あとくされなくて、楽だし。でも、キスは好きじゃない。でもって、誰かと続けたくなんか無いから、お前ともしないって。それだけじゃん」

「――――……だから……そこら辺全部が訳が分かんないって言ってんですよ。楽じゃないでしょ、知らない男と寝るリスク、ちゃんと認識してよ。あとくされもないけど、情もないんだよ。キスしたくないのも、そいつの事好きじゃないからでしょ。――――……そんな関係が、楽で楽しいなんて、本当は絶対思ってないでしょ」

「――――……」


 何だか急に、ものすごく、まくし立てられて。
 ――――……しかもなんか。
 何故か言い返せない感じで。

 あれ。何でオレ、言い返せないの、これ。

 ――――……ちょっとムッとして、口を噤んでいると。


「顔洗ってきたら? ホットサンド仕上げとくから」


 そんな風に言われて、微笑まれる。



「――――……」


 むむむ。
 ……むかつくけど。


 どうせ言い返しても、また返されるし。
 今頭働かないみたいだし。


 ……ホットサンド食べたいし。

 黙ったまま、四ノ宮から離れて歩き出すと。


「タオル、新しいのおいてあるから」
「……ありがと」

 言うと、またクスクス笑われて。行ってらっしゃいと送り出された。



 ――――……四ノ宮のキャラがなんか違う……。
 元々どんな奴なのか、謎な奴だったけど。


 ますます謎度が増していく。

 




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