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至近距離で

「マジで」*大翔

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 賭けてから、少し先輩の考える時間が延びた。

 真剣なまなざし。
 盤を見つめる、その顔をあくまでさりげなく、眺める。

 ――――……きれーな、顔。てか、服装によっては、女の子にも見えそう。

 ……何でカズキは、この人を振ったのかな。
 この人が、もう恋人を作らないとか言うような感じで、だよな?

 もともと幼馴染なら、恋人になる時、ある程度の葛藤はあったはず。 
 乗り越えて、少なくとも1年以上は付き合って、先輩が自分でする必要がない位は、関係を持ってたって事だろ……。

 抱いて思ったけど。
 ――――……すげえ、抱き心地良いし。エロいし。この顔だし。
 どうしても男がだめって奴じゃなかったら、イケてしまう、ような。

 幼馴染で友達として好きだった奴と、そういう意味で付き合って、抱いて……で、別れる時に、そんなひどい事、普通するか?

 世の中にはどんな奴がいるかわかんねえけど……。
 この人が、幼馴染からずっと見てて好きだった人間が、そんな意味の分からないひどい奴な訳がない。とも、思ってしまう。そんな変な奴、好きにならないよな……。


「四ノ宮……寝てる?」

 先輩の顔から盤に視線を落として、肘をついたままぼー、としてたら、そんな台詞が聞こえてきた。

「いや、起きてるよ。考えてる」

 答えてから。

「つか何で寝てンの、オレ。んな訳ないでしょ」
「だって動かないんだもん」

「真剣なんですよ」

 クスクス笑って。

「そんなに中高の頃の写真見たいの?」
「……見たいですね」

「……和希は写ってないよ?」

 む、とした顔でオレ見てそう言う。

「写ってるやつは、無くしたから……」
「ああ。別に。そいつが見たかったわけじゃないんで良いですよ」


 カズキは、なんでこの人に連絡とりたがっているんだろう。
 ……知ってんのかな、この人が、もう恋人作らないとか、そんな事言ってるの……。知らないか。今までの話だと、多分別れてから、連絡は取ってない。

 やっと、石を置いてひっくり返すと、先輩が石を持った。


「んー……」

 言いながら、じっと盤を見つめている。


 ――――……もし、カズキと会ったら。
 先輩は、どうするんだろ……。

 先輩が石を置いて、オレの番。


「ねー、先輩。カズキって漢字はどう書くの?」
「……平和に希望……何で聞くの?」

「何となく……考えてる時、今カタカナで考えてる気がするから」
「何それ。……つか、考える時、ある?」

「……まあ。考えますよ、たまに」

「――――……考えなくていいよ。どうせ、一生、関係ない奴だよ」
「――――……」

「オレにすら関係ないんだから、四ノ宮には関係ないだろ」

 まあ。そうなんだけど。
 考えながら、盤を見つめる。

「……ちなみに名字は?」
「……岡本」

 ……ふうん。岡本和希、ね。

「……まあ。関係ないんですけど。――――……あんたが、恋人要らないとまで言う理由、教えてくれたら、考えないですよ」

 ぱち、と石を置いて、ひっくり返す。


「……はい。先輩の番」

 オレのセリフに、困った顔でオレを見てるから、そう言った。

「……まあ、いいから。オセロやりましょ?」
「――――……」


 ふー、と息を吐いてから。
 先輩がまた視線を落とす。


 それからため息。


「――――……お前が勝ったら、いいよ。教える」
「え。……いいの?」

 急なセリフに驚いて、顔をあげたら。
 先輩は、ふ、と息を吐いて、オレをまっすぐ見つめる。

「――――……本当は言いたくも思い出したくもないけど……」
「――――……」

「……こんなに世話されてて、そんなに気にされてるのも……なんか悪い気もするから。……まあ、別にそんな死ぬほどの事ではないし…… でも、勝ったらな?」

「……了解」


 死ぬほど、マジでやろうかな。
 なんて思ったら。



「……つか、急にそんな真剣な顔しないでよ。今までなんかニヤニヤしてたくせにー」


 はー、とため息と苦笑いの先輩。


 ……ニヤニヤなんてしてたつもりないけどな?





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