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至近距離で

「人良すぎ」*大翔

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 いくつかつまんで、先輩は、「ありがと、美味しかった」と言った。

「もう良いの?」
「うん。十分。ありがと」

「ん」
 蓋を閉めて、とりあえずチョコを片付ける。
 時計を見て、夕飯どーすっかなー、とか考えていたら。

 先輩が歩いてきて、マグカップをテーブルの所に置く。

「どうしました?」
「あのさ、ちょっと……」
「はい」
「やっぱり、帰ろうかと思って」

 ――――……そう来るか。
 
「どうして?」
「……四ノ宮に迷わ」
「迷惑じゃないよ」

 言うと思った。最後まで言わせずに遮ると。先輩は固まる。

「――――……あのさ」
「……何ですか?」

「――――……キスもセックス、すんのも……オレ、慣れてる、よ」

 そのセリフに、先輩の顔を見ると。
 視線は合わせずに、何だか、下を見つめてる。

「……はい」

「……今までも、男としかしてないし」
「知ってますけど」

 答えると、少し黙って、それから先輩はオレを見上げた。

「……何でそんな、嫌なの、オレが他の奴とすんの。――――……百歩譲って……いや、一万歩くらい譲ってさ。お前がオレを好きって言うなら、分かるけど。オレに恋人が出来たら、それで良いとか。……好きでもないのに、こんな事に付き合うとか、全然意味がわかんない」
「――――……」

 ……まあ。確かに。そうなんだけど。
 ――――……そんな当たり前の事言われたって。今更、退くわけない。

 それに今、あんたのことが好きだからなんて言ったら。
 絶対に、今よりももっと、逃げ腰になるだろうに。


「……でもさ。先輩」
「――――……」

「協定結んだでしょ。……ある意味、オレにとって、あんたって、特別。それに、ゼミも一緒で、家も隣で、なんかすごく近い。そんな人がさ、昨日みたいな事になって、ひどい目にあうかもって思ったら、オレは、嫌なんだけど。分かんない? 逆に、オレがそういう事、しようとしてても、先輩は、いってらっしゃいって、言えんの?」
「――――……」

 む、として。
 少し、俯く。

 ……言える訳ないよな。
 オレより、絶対この人の方が、そんな事、言える訳ない。


「だから絶対嫌だし、無理。でもって、先輩に恋人が出来るなら引くけど、ちゃんとそこそこは好きだし、もう出来るのも分かったし」

 近づいて、先輩の目の前に立つ。

「――――……そこそこって……そんなんで、男に興味ないくせに、セックス、できんの……?」
「昨日できたし。今からでも出来るよ」

 先輩の眉が寄る。


「とりあえず、なんだけどさ。とりあえずしばらく――――……他の奴と、すんのやめてくれません?」
「――――……」

「オレ、ばらさないし、先輩をひどい目にも遭わせないし。ちゃんと、気持ち良くしてあげるから。薬なんか、使わない方が気持ちいいって、言わせるから」
「…………っっっ」

 真っ赤。

 何か言ってくるかと思ったら。
 言えないのか。

 ――――……この反応って、遊び慣れた奴の反応とは思えないんだけど。
 知ってる奴とすんのには、慣れてないのからか。カズキだけ、か。

 一晩……というか、セックスの間だけ。
 その行為だけ、なら。

 没頭すればできるっつーことなのかな。


「――――……っお前、ほんと、人からかうのも……」

 そんな風に言う先輩の、逸らされた顎を捕らえて、オレの方に向ける。
 ゆっくり、キスする。

 ぎゅ、と目をつむって、口、開けないし。
 必死なのが少し可愛くて。ふ、と笑ってしまい、少し離す。


「からかってなんか、ないよ」

 そう言って、至近距離で見つめると。

「……オレ、お前とする気、ないってば」
「――――……何されるか分かんない他人とは出来るのに、何でオレとは無理なの? だってオレ、もうばらしたりしないって分かってるでしょ。何が問題なの?」

「……問題しかないし」

 ……ふーん。
 問題しか、ない。ね。


「ああ――――……なるほど」
「……?」

 少し。……煽ってみる事にする。

「オレとセックスしてたら、オレの事好きになっちゃうかも?」
「――――……」

「だから嫌なの?」
「……そんな訳、ないじゃん」

「どうかなー。先輩、情に弱そうだもんね。そっか。そういう事か」
「っ違うってば」

 すぐムキになる。……思う通りに。


「じゃあ、何? 何の問題がある?」
「――――……」

 先輩は、また黙ってしまった。

「……とりあえず、迷惑じゃないから。帰らないで。とりあえずオレ、夕飯考えるから。先輩は、今オレが言った事、考えていいよ」

「――――……」


 先輩は、あー、もう……という顔で、息をついて。
 またソファに座りに行った。

 ……帰るのは、保留にしたみたいだな。



 ――――……別にオレに納得されなくても、帰ったって本当は良いのに。
 それは、できないんだよな、先輩は。




 ……人よすぎ。心配になる位。



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