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至近距離で

「かけらも」*大翔

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「大声で応援してくれた人にお礼が言いたいって言うからさ」

 弟のセリフを思い出して、クスクス楽しそうな先輩。

 ――――……そんな笑顔を見てると、ふと思うのは。


「――――……」


 手を、先輩の頬に、触れさせた。


「――――……しのみや?」


 びっくりした顔。


 オレ、雪谷先輩に、笑っててほしいんだよな。
 楽しそうに。

 ずっと、その顔で。

「――――……」

 ……ああ、何か。
 触ったら、笑顔、消えたな。

 触んなきゃよかった。
 そっと、手を離す。

「……はい、どーぞ」

 持ってたカフェオレを、先輩に返すと。
 ぽかん、とした先輩は。

「……っっ」

 ものすごく複雑そうな顔で赤くなって。
 ぷい、と顔を背けて。カフェオレ、飲み始める。


「怒ってます?」
「……別に」

「じゃあこっち向いててよ」
「――――……やだ」

「じゃあオレがそっち側、行くけど」
「……っ……」

 もう、ほんとにお前って、意味わかんねえ。
 オレを振り返った顔に、はっきり書いてある気がして。 

 ふ、と笑ってしまう。

 オレが笑うと、益々、むー、と眉をひそめて。
 でも、何も言わず。また膝抱えて、マグカップで、顔、隠してる気がする。

 ――――……膝抱えて座んの、癖?
 なんかこんな感じで、家で1人で座ってんのかなーとか思うと。

 何だかちょっと、たまらなくなる。



「――――……今は、眠くない?」
「……うん」


「1人に、なりたい?」
「――――……ここでいい」

 ここで、いいんだ。
 そっか、とちょっと微笑む。


「なんか、甘い物でも食べますか?」
「んー……うん」

「葛城がこないだ持ってきたなんか箱に入ったチョコがあるけど。それでいい?」
「うん。ありがと」


 こういう会話なら、普通にしてくれるらしい。
 オレは立ち上がって、キッチンの棚から、チョコの箱を取り出した。
 開くと、ざっと50個くらいのチョコが並んでる。

 先輩の隣にまた座って、ん、と見せた。

「すごいね、たくさん」
「全部食べても良いですよ」
「え、何で? 食べないの?」

「食べても、1つ2つなんですよね。好きなだけどうぞ」
「でもさすがに限度があるけど……いただきまーす」

 オレの手の箱から、チョコをひとつ取って、ぱく、とくわえる。

「これ、美味しい」
「どれ?」
「これ」

 先輩が指したのを、ぱく、と食べる。

「どう?」

 近い。チョコの箱挟んで、すぐだからなんだけど。
 少し顔、ひきつつ。

「……ん、美味しいですね」

 そう言うと。「だろ?」と笑う。

「なんかすっごい高そうな味がす――――……」

 クスクス笑いながら、言う先輩の、項に触れて、引き寄せた。

「しの――――……」

 キスして、深く唇を重ねると。頭を引いて離れようとするけど。
 ぐ、と押さえると、不思議と、そこまで抵抗、しない。


「……ふ――――……」

 舌を絡めると、甘いチョコの香りが、鼻を抜けてく。
 なるべく優しく、キスして、離す。

「……あまいね」
「――――……」

 先輩は、ものすごく何か言いたげに、じっとオレを見つめる。



「――――……先輩」
「――――……」


「カズキってさ……先輩に何したの? いつかちゃんと、教えて」
「――――……」


 先輩は、困ったように視線を逸らして。
 それから、ふー、と、息を吐いた。



「……つか、超自然にキスすんの、やめろよ。なんか動けない。宇宙人、魔法使えるとか……?」


 言われて、苦笑いが浮かんでしまう。


「使えるなら、使いますね」
「……怖い」

 ふたつめのチョコを摘まんで、ぱく、と食べてる先輩を見ながら。



 

 カズキのこと。
 この人の中に、かけらも残さず、捨てさせたいなあ……。



 なんて、思う。



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