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至近距離で
「ほっといてとか」*大翔
しおりを挟む「はい。どうぞ」
「ありがと」
自分のコーヒーも淹れなおし、先輩のは甘いカフェオレにして、ソファに居る先輩に渡した。
そのまま、さっきの位置に座る。
2人で、ソファの上。
土曜の天気のいい午後。
窓際のソファに2人で並んで。ただコーヒー、飲みながら。
「――――……美味し……」
オレに言う、というよりは、自然と漏れたような感じで呟きながら、ふーふーして飲んでる。
――――……何だろうなぁ。この気持ち。
全然分かんねえけど。まあいいや。
「先輩、夜、何食べたいですか?」
「……何でもいいよ」
「何か言ってくれた方が、作りやすいんですけど」
「……四ノ宮が食べたいものは?」
逆に聞かれてもなあ……。
せっかくだから、好きなもの作りたいのに。と思ったら。
「作るの、何でもおいしそうだから。ほんとなんでもいー」
「――――……」
なんか。少し、ドキ、とする。
ちょっと嬉しい?ような。
そんなオレには気づかず、先輩は、少しの沈黙の後。
「……あのさー、四ノ宮」
「はい」
あんまり明るい話題ではなさそうな口調。
先輩が話すまで、黙って待っていると。
「……昨日の事はさ。なんか。すごく反省、してる」
「――――……はい」
「……なんかお前と喧嘩して……というか、オレが怒って、クラブ行って。いつもなら気を付ける事も、気をつけなくて…… なんか、もう、すぐ帰るからと思って、貰ったもの飲んじゃったり……」
オレには視線を向けず、カフェオレの表面をじっと見つめたまま、先輩はゆっくり、話す。
「……前に寝た人も、なんかオレの方、見てた気がして、目を逸らしてたんだけど、なんか――――……あんまり気にせずトイレ行っちゃって、2人きりになっちゃったり。あれもほんとなら……もうちょっと、気を付けてた筈で。それを助けてもらったからって、あの2人をちょっと信用しちゃったというか……断れなくなっちゃったというか」
「――――……はい」
「……今まで何度も、クラブ行ってたけど。昨日、ほんとにオレ、ダメだったと、思う」
そこでようやく、先輩はオレを見た。
「多分お前が来てくれなかったら、オレ、その2人とホテル行って……まあ。ちょっとあんまり良くない事になってたんだろうなと思うし……」
「――――……」
「だから……昨日のオレ、ちゃんと反省する、から」
「だから?」
「……危ない事、ちゃんと気を付けるからさ」
「――――……」
「……だから、お前が相手、するとか――――……そんなの、しなくて大丈夫だよ」
言うと思った。
……絶対、それを、言うんだろうなとは思ったけど。
まあ。分かってたから、別に腹も立たないけど。
「先輩」
「……?」
またカフェオレを見ていた先輩は、ふと、オレを見つめ返す。
「……彼氏ができるんじゃなかったら、無理です」
「あのさ……それが、よく分かんないんだけど……」
「恋人なら仕方ないですけど。……どうでも良い奴に抱かれる先輩、許せないんで。無理です」
「――――……でも、それ、四ノ宮が無理って言う事じゃないじゃん」
……まあ。そりゃそうだけど。
――――……でも、絶対無理だな。
「……四ノ宮、オレさ」
「はい」
「恋人、作る気、無いの。ずっと」
「――――……」
「ずっとだよ? もう、一生。作んなくてもいいと思ってんの」
「――――……」
「……オレがさ、恋人、一生作らなかったら、どうすんの?」
「――――……」
「一生、お前が、オレとすんの? ……つか、おかしいでしょ、それ」
先輩は、また、下に目線を移した。
「だからさ。オレの事はほっといてくれて、良いよ?」
投げやりと言う訳でもなく。
普通の事のように、一連のセリフを口にして。
最後、先輩は「オレ、大丈夫だから」と言って、にっこり笑って見せる。
――――……全然普通の事のように。
ほっといて。と笑顔で言われて。
ため息は、つきたくないのだけれど。
――――……深くついてしまいそうで。数秒息を止めた。
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