122 / 553
至近距離で
「ほっといてとか」*大翔
しおりを挟む「はい。どうぞ」
「ありがと」
自分のコーヒーも淹れなおし、先輩のは甘いカフェオレにして、ソファに居る先輩に渡した。
そのまま、さっきの位置に座る。
2人で、ソファの上。
土曜の天気のいい午後。
窓際のソファに2人で並んで。ただコーヒー、飲みながら。
「――――……美味し……」
オレに言う、というよりは、自然と漏れたような感じで呟きながら、ふーふーして飲んでる。
――――……何だろうなぁ。この気持ち。
全然分かんねえけど。まあいいや。
「先輩、夜、何食べたいですか?」
「……何でもいいよ」
「何か言ってくれた方が、作りやすいんですけど」
「……四ノ宮が食べたいものは?」
逆に聞かれてもなあ……。
せっかくだから、好きなもの作りたいのに。と思ったら。
「作るの、何でもおいしそうだから。ほんとなんでもいー」
「――――……」
なんか。少し、ドキ、とする。
ちょっと嬉しい?ような。
そんなオレには気づかず、先輩は、少しの沈黙の後。
「……あのさー、四ノ宮」
「はい」
あんまり明るい話題ではなさそうな口調。
先輩が話すまで、黙って待っていると。
「……昨日の事はさ。なんか。すごく反省、してる」
「――――……はい」
「……なんかお前と喧嘩して……というか、オレが怒って、クラブ行って。いつもなら気を付ける事も、気をつけなくて…… なんか、もう、すぐ帰るからと思って、貰ったもの飲んじゃったり……」
オレには視線を向けず、カフェオレの表面をじっと見つめたまま、先輩はゆっくり、話す。
「……前に寝た人も、なんかオレの方、見てた気がして、目を逸らしてたんだけど、なんか――――……あんまり気にせずトイレ行っちゃって、2人きりになっちゃったり。あれもほんとなら……もうちょっと、気を付けてた筈で。それを助けてもらったからって、あの2人をちょっと信用しちゃったというか……断れなくなっちゃったというか」
「――――……はい」
「……今まで何度も、クラブ行ってたけど。昨日、ほんとにオレ、ダメだったと、思う」
そこでようやく、先輩はオレを見た。
「多分お前が来てくれなかったら、オレ、その2人とホテル行って……まあ。ちょっとあんまり良くない事になってたんだろうなと思うし……」
「――――……」
「だから……昨日のオレ、ちゃんと反省する、から」
「だから?」
「……危ない事、ちゃんと気を付けるからさ」
「――――……」
「……だから、お前が相手、するとか――――……そんなの、しなくて大丈夫だよ」
言うと思った。
……絶対、それを、言うんだろうなとは思ったけど。
まあ。分かってたから、別に腹も立たないけど。
「先輩」
「……?」
またカフェオレを見ていた先輩は、ふと、オレを見つめ返す。
「……彼氏ができるんじゃなかったら、無理です」
「あのさ……それが、よく分かんないんだけど……」
「恋人なら仕方ないですけど。……どうでも良い奴に抱かれる先輩、許せないんで。無理です」
「――――……でも、それ、四ノ宮が無理って言う事じゃないじゃん」
……まあ。そりゃそうだけど。
――――……でも、絶対無理だな。
「……四ノ宮、オレさ」
「はい」
「恋人、作る気、無いの。ずっと」
「――――……」
「ずっとだよ? もう、一生。作んなくてもいいと思ってんの」
「――――……」
「……オレがさ、恋人、一生作らなかったら、どうすんの?」
「――――……」
「一生、お前が、オレとすんの? ……つか、おかしいでしょ、それ」
先輩は、また、下に目線を移した。
「だからさ。オレの事はほっといてくれて、良いよ?」
投げやりと言う訳でもなく。
普通の事のように、一連のセリフを口にして。
最後、先輩は「オレ、大丈夫だから」と言って、にっこり笑って見せる。
――――……全然普通の事のように。
ほっといて。と笑顔で言われて。
ため息は、つきたくないのだけれど。
――――……深くついてしまいそうで。数秒息を止めた。
83
お気に入りに追加
1,631
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる