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至近距離で

「カフェオレ」*大翔

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 しばらく考えて。
 よく分からないから考えるのをやめた。

 コーヒーでも飲もうと思って、キッチンに立つ。

 ――――……先輩、寝たかな。……飲むかな。
 カフェオレとかのが良いか。

 自分の部屋の寝室をそーっと開けて。
 しばらく様子をうかがう。動く気配は、無い。

 中に入って、先輩の顔が見える所まで歩いて。
 ――――……やっぱ、寝ちゃうんだな。と、笑んでしまう。

 学校で見かけるこの人は、いつも人に囲まれて楽しそうで。とても元気だから。こんなぐったり、昼寝するとか無さそう。
 ――――……多分、体なのか気持ちなのか。ダメージでかいんだろうな。

 そっと、手を伸ばして、その頬に触れる。

「――――……」

 怒ったり。泣いたり。乱れたり。――――……笑ったり。
 なんか本当に、色んな顔を見てる気がする。

 ……なんか。傷ついてるみたいな顔が、一番。残ってる気がするし。
 どんだけ歪んでんのかなと。オレに思われるって相当だし。

 ……ほんと色々、面倒くさい。


 そっと、手を離す。
 先輩から離れて、ドアをそっとしめた。


 ほんとに。こんなめんどくさい人、居ない。
 ゲイで。歪んでて。隣に住んでて。ゼミ一緒で。……何故か協定なんか結んだし。

 ――――……なんか。
 いつものオレなら。関わらないか、上っ面だけ関わって終わりにする。色々環境的に距離が近いから、よりめんどくさいし。

 キッチンに戻ってコーヒーの準備をする。
 コーヒーの香りがたちはじめて。
 深呼吸。

「――――……」

 自分の事すら、色々意味が分かんねえし。
 面倒くさい人だって思うけど。



 放っておけないとか。
 ――――……思うの初めてだもんな……。


 コーヒーを淹れ終えて、ソファに座る。

 土曜の、午後。
 天気もいいし。――――……静か。

 出かけもせず。ぼんやりしてるとか。あんま、無い。

 窓から空を見上げて。気づけばもうすっかり冷めたコーヒーを一口飲んだ時。
 部屋の奥で、かちゃ、と音が聞こえた気がして、ドアの方を振り返ると。

 先輩がそっと顔をのぞかせた。


「少しは眠れました?」
「……うん」

 まだぼんやりしたまま、先輩が近づいてきて。
 ソファの端に腰かけた。

「……何かオレ、寝てばっかじゃない?」

 苦笑いで、ゆっくり話す先輩に、何だか、柄にもなく。 
 ――――……優しい気持ちに。なる。ような。


「……昨日疲れたんでしょ」


 ――――……オレに抱かれて。キスされて。
 さっきだって、寝る前キスされて、固まってたのに。

 警戒してもおかしくないのに。

 ソファの端っこに、座ってくる先輩。

 ――――……何だかなー。警戒心あるようで、全然ない……。


「先輩も、コーヒー飲みたい?」
「んー……」

 先輩はオレが飲んでるコーヒーをちょっと見て。
 少し固まってる。ちょっと笑ってしまいながら。

「ブラックは嫌? カフェオレにする?」

 聞くと、ぱ、と嬉しそうな表情。
 

「いいよ。待ってて」

 笑ってしまいながら、立ち上がる。

「あ。そーだ……先輩?」

 先輩の前を通り過ぎるところで立ち止まって、先輩を見下ろす。


「――――……少しは顔色、良くなったね」

 まあ、良かった。
 自然と、ふ、と笑むと。
 
 先輩は、じっとオレを見上げて。それから、うん、と頷いて、そのまま、足を持ち上げて、ソファで膝を抱えた。


「あ。先輩、甘いのが良い?」
「……うん」

「了解です」


 先輩を残して。キッチンに向かう。





 ……うーん。
 これは。

 よく分からねえけど。



 ……甘やかしたくてしょーがない。んだろうか。



 なんか。
 ちょっと前から、そんな傾向があったような気も、僅かにしていたけど。



 ――――……なんか、今、ものすごい、そうかもしれない。








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