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至近距離で

「何で」*奏斗

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 マンションについて、部屋の前で四ノ宮は足を止めた。

「先輩、今日オレんち泊まって」
「――――……」

「だから、もう着替えとか歯ブラシとか、必要な物一式持ってきて」
「……オレ、もう大丈夫、だよ? そんなに、体調悪くないし」

「顔色、良くない。ご飯とか用意するのも面倒でしょ。今日明日は世話してあげますよ」
「――――……」

「じゃ、待ってるから」

 そう言って、四ノ宮は、自分の部屋に入って行った。
 何だかな……そう思いながら、自分の部屋の鍵を開けて、部屋にあがって。
 言われたまま、デカいエコバックみたいなのに、着替えとか詰めていく。

 ……何で言われるまま、こんなもの詰めているんだろうか。
 ――――……何か頭が、考える事、拒否してるみたい。

 でも多分、1人で家に居ても、四ノ宮の事、考えてしまう気がして。

 抱くとか、平気で言うけど。冗談なのか、本気なのか、よく分かんないけど。とりあえず、ちゃんと話さないと。万一本気で言ってるなら、そんな気ないって言わないと。

 世話してくれるとか、してもらいたいとか、そんなんじゃなくて。

 こんなよく分かんない状態で離れて、また学校が始まって、普通に過ごしてゼミまで会わないとか、正直、耐えられない。
 で、ゼミで、皆の前で普通に会うとか。ありえないし。

 だったら、この土日、すごい嫌ではあるけど、一緒に過ごして、気になる事はちゃんと話して、すっきりして、平日の学校を迎えたい……。

 うん。行くしかない。
 このまま、なんて、無理だもんな。



 大体さ。
 何で、あいつ、オレを抱いたの。

 ……オレがもし、普通に女の子が好きだとして。
 まあそこそこ縁のあるゲイの男が、変な薬飲まされて、乱れてたとして。

 そしたら、もしかしたら、最悪、最大限努力して。
 手伝ってあげる位なら、可能性、もしかしたら、1パーセント……いや、3パーセントくらいなら、有るかもしれない。触ってあげる位なら。

 ……抱いてあげる可能性は、どこまでいっても、ゼロだ。
 アホでどうしようもないそいつに、口でされて、一瞬反応してしまったとしても。……絶対、止まるはず。最後までなんてしないと思う……。

 しかも。
 四ノ宮にとって、オレって、お隣さんで。大学のゼミの先輩で。そんな事してしまったら、結構面倒な相手だろうしさ。

 その上、オレって、ゲイで、恋人も作らず、だらしなく遊んでるアホな人。なんだろうし。


 ……普通、そんな奴、抱きますか??

 もう何なの。すげーたまってたとか??
 それで、もう、本当に、誰でも良かったとか?
 

 ――――……何だかもう、考えてると、かなり自虐がちょいちょい入ってきて、勝手に落ち込んでいくけど。


「――――……」


 不意に、四ノ宮のセリフが頭に浮かんできた。

 オレが誰かに抱かれに行くのが嫌だったって言ってたな……。

 まあそこは、すごく心配してたのも分かってるから、嫌だったというのは、分かる気がする。

 ……でもその後言ってたセリフ。

 自分が抱けるって分かったから、もう他の奴に抱かれたりさせないって。彼氏が出来るなら良いって。



 ……さっぱり、分からない。
 四ノ宮に、何のメリットがあんの? 男なんて、好きじゃないだろうに。


 詰め込んでた袋に手を置いて、しゃがみこんだまま。
 しばらく動けなくなった。
 



(2022/3/19)
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