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至近距離で

「宇宙人+母親」*奏斗

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「ごめん、真斗。試合には間に合うよう行くから。終わった後とか会える?」
『ミーティングとかもあるし。今日は会えないかも』
「じゃあ差し入れ持ってっても無駄?」
『うん。今日はいいよ』

「分かった。ごめん、心配かけて」
『ほんとだよもう……まあでもよかった』

「ごめんね。じゃ、後で。頑張って」
『ん、頑張る。じゃあね』


 電話を切って。――――……ため息。

 なんか。
 弟に、ものすごく心配させてしまった……。


「先輩」

 四ノ宮は自分のスマホを手に取りながら、オレを見た。

「試合の場所どこ? 何時から?」

 真斗の連絡に書いてある体育館の名前と時間を言うと、スマホで少し調べて。

「まだ車でも間に合うから。一緒に行く」
「え?」

「車で行って、試合見たら、車で帰ればいいでしょ?」
「車?」

「駐車場に停まってるから。葛城がおいてった車」
「――――……」

 葛城さんの車って……。

「外車??」
「じゃないよ。普通の車だから」

 ふ、と笑って。四ノ宮が言う。

「着替えて準備して来なよ。準備出来たらチャイム鳴らして」
「……良いの?」
「まだ聞くんですか、それ。――――……オレ、良くなきゃ絶対自分から言わない奴だよ、知ってるでしょ」
「――――……」

 うん。まあ。
 ……そうなんだろうなとは思うんだけど。

「すぐ用意してくる」
「うん」

 四ノ宮の部屋を出て、自分の部屋に戻って、着替えや出かける準備を終えた。
 ……送ってくれる、か。……なんでそこまでしてくれるんだか、分かんないけど。

 戸惑いつつも、チャイムを鳴らすと、もうすっかり出かける準備のできた四ノ宮が靴を履いて出てきた。エレベーターで地下まで行く。

「先輩、こっち」

 四ノ宮について歩き、鍵を開けてくれた車の助手席に乗りこんだ。

「……免許持ってるんだ、四ノ宮」
「先輩は?」
「持ってるよ。去年とった」
「そっか。――――……あ、寝てて良いよ」

 そう言われて、何だか、笑ってしまった。

「何ですか?」
「もうお前、どんだけオレ、寝かせたいの? 寝て良いよってずっと言ってるし」

 そう言うと、四ノ宮は一度ため息をついた。

「――――……ほんと、ぐったりしてた先輩見てたから。寝てた方がいいと思うんですけどね。……まあ弟の引退試合とかはもう絶対見たいんだろうから、しょうがないですけど」

「負けなかったらまだ引退しないけどね」
「あぁ。そうですね」

 運転しながら、クスクス笑う。

「うまいの? 弟」
「うん。声かけられてプロになるかも考えてたみたいだよ」
「ならないの?」
「ならないんだって。やりたいことがあるらしいよ」
「そうなんだ。先輩の弟、モテそうだよね」

「まあ。モテるらしいけど……」
「……何ですか?」

「すげーモテる奴に言われてもなあ……」

 思わずそう言うと、四宮は苦笑い。

「オレ、モテてももう、ホントに関係ないから」
「……何で?」

「しばらくはあんたと居るって決めたから」
「……本気で言ってんの?」

「本気じゃなきゃこんな事言わねーし」
「――――……」

 ちら、とオレを見てから、また前を向く。

「一応、男の先輩にこんな事言ってるのがおかしいっつーのは自覚してるけど。……オレの事、気持ち悪いとか思う?」

「え。――――……てか、気持ち悪いって……言うならお前だろ。オレじゃないよ」
「オレが先輩の事気持ち悪いとか言う訳ないし」
「――――……」

 ……よく分かんないけど。
 ――――……なんか。その言葉は、嬉しい気がする。


「ん。……なんか、ありがと」
「はは。そこ、礼言うの?」

「……まあ、何となく」

 車が止まって、オレが俯いた時四ノ宮の手が伸びてきて、顔を上げさせられる。


「……なに?」

 驚いていると、眉を顰める四ノ宮に、ぱ、と離される。


「やっぱ、顔色よくないんだよなー。寝ててほしかったけど」


 ……それ確認するのに、そんな顔の上げさせ方、する??

 もう。お前。
 前世、ホストか何かか……。

 ……現世は宇宙人だし。
 もう何なの。


「……大丈夫だってば」

「試合、終わったら即帰るからね」
「……うん」

「オレんちにだからね」
「……うん」


 ……宇宙人+世話焼きの母親か。
 もうなんか。意味わかんなくて、四ノ宮に、苦笑いで頷く。
 


 

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