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近くて遠い
「謎」*奏斗
しおりを挟む目の前の鏡。
四ノ宮を鏡越しに盗み見る。
……四ノ宮ってほんと、謎。
――――……するかな?
男の先輩の髪の毛、乾かしたり、普通する?
オレの髪の毛を見てるから、特に目が合う事は無いまま、オレはただ四ノ宮を観察し続けているのだけれど。ほんとに意味が分からない。
イイ男過ぎる位、イイ男だけど。
薬、で、苦しんでたらしいオレを、助けてくれたのは、こいつだけど。
くっそ。 その後が、意味わかんない。
……宇宙人めー……。
「ん、終わり」
コンセントを抜いて、四ノ宮がドライヤーを片付けるのを見ながら。
「……ありがと」
一応、礼を言って、離れようとした瞬間。腕を掴まれて、引き戻された。
「――――……っ」
何……?
近い。近すぎ……。
顔を引いてしまうと。四ノ宮が苦笑い。
「オレが怖いですか?」
「え。……ううん、怖く、はない……」
至近距離で、整いすぎた顔を見上げてしまって、思わず眉を寄せて、答えると。
「――――……じゃあ意識、しまくってますか?」
「……っ」
そんな風に聞かれて、言葉に詰まる。
「さっきのビクついたの、何?」
「――――……っだって、お前、意味わかんねえし」
「……何かされるって思った?」
「――――……思ってない。 っもう、早く、帰ろうよ」
四ノ宮の手を外させて、部屋の方に戻ろうと、したのに。
顎に触れられて抑えられて――――……キスされる。
「~~~……っっ!」
もう、ほんとに、何っ……!!
顔を背けようとしても動けなくて、手でどかそうとしても捕らえられて、むしろ尻の辺りを洗面台に押し付けられて、それ以上退く事もできなくなって。
「――――……っン……っ」
深く、キスされたまま、目を開けて、宇宙人をひたすら見つめる。
しばらくして、ようやく離されて。
「………っな、んなんだよっもう!」
「だから、まずキスに慣れて、て言いましたよね」
しれっと言われて、もう、頭ん中はパニック。
「慣れるか! っていうか、まずって何だよっっ」
「………そんなの分かるでしょ」
手が、顎から、首筋に滑る。ぞく、と震える。
……っ触んなー!!
「――――……オレに抱かれるのも、慣れてもらうから」
「…………っっ」
「嫌なら、ちゃんと付き合う人作って下さい」
「…………っっっっもう、意味わかんねーから! この宇宙人!!」
そう叫ぶと、四ノ宮、びっくりした顔して。
それからクックッと、笑い出す。
「おもしろ、先輩」
「っ面白くないし!」
叫んだ所で、腰に腕を回されて、四ノ宮に引き寄せられる。
「近い、っつの……!」
「――――……なあ、先輩」
「……っ」
「オレとすんの、良かったでしょ?」
とんでもない事、近くで囁かれる。
覚えてる限りの自分の全部が、嫌でもよみがえって、かあっと熱くなる。
「――――……っあれは、く、すり飲んでたからだろっ」
「……ふーん?」
面白そうにニヤ、と笑った四ノ宮は。
「……薬が完全に抜けたら、もう一度してみます」
「――――……」
「それで良くないなら、考えますけど」
「――――……っオッケイしてないから」
クスクス笑う四ノ宮に、もうほんとこいつ嫌、と思いながら、そう返していたら。
四ノ宮が、ポケットで短く音を立てたスマホを見て。
「あ、もう着くって。出ましょう」
そう言った。
着く?
もう、何言ってんだか、全て意味が分からない。
――――……とりあえず、帰って考えよう。
オレの鞄を渡してくれるのを受け取って。
とんでもない事をしてしまったホテルの部屋を。
四ノ宮の後について、やっと、出た。
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