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近くて遠い

「何それ」*奏斗

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 ――――……四ノ宮には、ほんとに迷惑かけたと思うから……考えたけど。

 やっぱり、言いたくない。

「――――……振られた、だけ」

 オレは、そう言った。

 別に嘘じゃない。
 本当の事だ。

「――――……ただ、振られただけ?」

 四ノ宮が、じっとオレを見つめる。

「そう。……別れたいって、言われた」

 本当に、そう。

「……別れたいって、言われただけで? そんな風になる?」

 四ノ宮は、腑に落ちない顔をして、オレを見つめる。

 ――――……事実だけど。
 ……オレが、もう、人と付き合う事を諦めた理由は、言ってないけど。

 でも。言いたく、ない。

「――――……何で、1人でしないの?」
「…………」

 少し質問を切り替えた四ノ宮。
 ――――……そっちから、聞く事にしたのか。

 ……そっちなら、言える、かな……。

「しようとすると――――……勝手に和希が浮かぶから……」

「………だから、1人でしない?」
「……うん、そう」

「……1人でする位なら、外に行く?」
「――――……うん」

 頷くしかなくて、そうしていると。
 四ノ宮は、呆れたような、長いため息を付いた。

「……もしかしてカズキを思い出すからなのかとは思ったけど。――――……マジでそうなのか……」

 もしかしてとか、思われてたのか。
 と、思うと、それも、どうなんだろうとちょっと悩むけど。

「……あのさ、先輩」
「……うん」

「――――……人と付き合って、別れるなんて、普通の事だろ」
「――――……」

「誰だって、経験するし。でも、皆そこ忘れて、次にいくのに」
「――――……」

「何で先輩は、次に行かねえの?」
「――――…………」

 四ノ宮の言葉は、当たり前の事で、まっすぐで、痛いとこ、ついてくるんだけど。

「……オレは……もう、行こうと思ってない」
「だから、何で?」


 ……四ノ宮に、悪いとは思ってるけど。
 …………しつこい。

 ――――……言いたくない。
  口にして…… はっきり、思い出したく、ない。


「――――……なんで、言わなきゃいけないんだよ」
「――――……」

「そこは、言いたくない」

 そう言うと、四ノ宮はムッとして黙る。


「――――……ふーん……そっか……」

 四ノ宮はものすごく長い沈黙の後、そう言った。


「……分かりました」

 あ。分かって、くれた……?


 しばらく、黙って、四ノ宮の言葉を待っていると。


「じゃあ、今は、もういいです」

 ……今は?


「オレ、決めた事があるんですよ」
「え? あ、うん。……決めたこと?」


「今度、外行きたくなったら」
「うん……」


「オレが、相手しますから」
「――――…………」

 ……?


「え?」


 今何て???
 マジで何を言ってるんだか分からなくて、四ノ宮を見つめていると。

 四ノ宮の手が、オレの項に掛かって。
 え、と思ってる間に、ぐい、と引き寄せられて。


 ――――……顔が、すごく近づいてきて。

「んぅ……???」


 ん??
 ――――…………きす、されて……。



「ちょ、待っ――――……っん……っ」

 舌が絡んできて、焦る。
 焦って動かした手首を掴まれて、めちゃくちゃ、キス、される。



「……っ……――――……」


 ゆっくり、離される。


「……なに、すン、の?」


 さっきの、あれは、不可抗力だろ。
 今のは、何?????


 なんかもうびっくりが凄すぎて。
 ただ、至近距離の四ノ宮を見つめるしか、できない。


「――――……先輩を、抱くって決めた時に」
「――――……」



「あんたがしたいなら、オレがするって決めたんですよ」


 ……四ノ宮、何、言ってんの……???
 

「先輩が誰か好きな1人と付き合うっていうなら、良いですよ。でもそうじゃなくて、誰でもいいなら、オレとしてください」



「――――……何、それ……??」


 全く意味が分からな過ぎて、オレは、四ノ宮をただ、見つめた。




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