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近くて遠い
「覚悟」*大翔
しおりを挟むぼー、としたまま、オレを見上げた先輩は。
掠れたような声で、一言。
「――――……か、ずき……?」
「――――……」
は?
……かずき?
――――……あぁ。元カレか?
……理解した瞬間、ため息が漏れた。
別れた理由は知らねえけど別れてもうずいぶん経ってるはず。
なのに、あんなに取り乱して、震える位。良い別れじゃなかったはず。
そんなのの為に、恋人作らず、一晩とか言ってやってるからこんな目にも遭って。全部そいつのせいじゃねえか。でもって、こんな時に、名前がまだ出る訳?……まあ、出るんだろうけど。こないだのあの様子からだと、それもわかるんだけど――――……。
つか、オレ、こんなのに対して責任とるとか、マジで意味、わかんねえし。
元カレ、呼びたい位だっつーの。
やっぱり、色々ねえなと思いながら、苛つきながら、先輩の顎に触れて、顔を上げさせる。
「先輩、少し出せました?」
「……」
もう完全に、目、つむってる。
アルコ―ルに弱いのか、意識朦朧の副作用なのか、もうよく分かんねえけど……。とにかく出せたなら、もうベッドに寝かせてしまいたい。
「先輩? イけたの?」
「――――……」
小さく、首を振る。
「何で? シてないの?」
「……し、たく、ない」
「――――……」
何だか固まってしまう。
したくない? どーいうこと?
「え? でもさっき、やり始めたでしょ?」
「…………」
「やめたの?」
そう聞くと、頷く。
「何で?」
……正直、さっぱり、意味が分かんねえ。
出したほうが楽だって、体的に、自分でも分かるだろうに。
「普段しますよね? それと一緒で…… あ、手が動かしにくいですか?」
「……しない」
……は?
――――……しない??
「……普段、しねえの?」
先輩は、なんかぐったりしたまま、頷く。
普段、しないって事? …………は??
「――――……何で?」
普段から、自分でしねえの?
――――……だから、たまったら、外に行く、なのか?
「自分でしたくないってこと?」
「――――……」
意味が分からない。
でもきっと、理由があるんだろうなと、思う。
じゃなきゃそんな事にはならない。
「……っ」
――――……何なんだよ。どんだけ、歪んでんの。
頭抱えて、座り込みたい気分。
時間にしたら少し。でも、ものすごく、色々考えた。
で。――――……覚悟を決めた。もう、ほぼ、やけくそ。
寒くないように、シャワーを出して、先輩にあてる。
オレは、袖をまくった。
「――――……先輩」
「……」
「触りますよ?」
返事は無い。
「――――……これは、処理だから」
先輩にじゃなくて。
自分に言い聞かせてるみたいだなと。思いながら。
前からは、なんだかもう、刺激がありすぎて見たくない。
後ろから、先輩を引き寄せて。
色んな葛藤と躊躇を、どうにか捨てて。
先輩に、触れた。
「……っ……ん、……ぁ」
すぐに、びく、と体が震えて、声が漏れる。
同じ男のだ。多少違っても、ほぼ一緒。
触っても、関係ない。これに何の意味もない。
本人、朦朧としてるし。
あとになっても、この件、触れなきゃ良い。
今だけ。
そう思おうとしてるのに。
――――……甘えるみたいな声に。
頭ん中、溶けそうな気がしてくる。
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