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近くて遠い
「まさか」
しおりを挟むそれから、リクさんは、ふ、と笑った。
「まあユキくんも、完全否定してたけどね」
「……何をですか?」
「後輩くんは、君のことが好きなんじゃないのって、聞いたら。無いですって即答してた」
クスクス笑われて、まあ。そうなんだけど、思いながら。
何かが胸を掠めるけれど。
「あのさ、ユキくん、歩けないし、多分タクシーとかもきついと思う。ここのすぐ後ろに、男同士でもいけるホテルあるよ。その方がユキくんにはいいと思うけど」
「――――……」
この状態の、この人と、ラブホ……。
なんか、すげえ、嫌なんだけど。
その方がいいのは何となく分かるんだけど、
何だか頷きたくない。
「別にその気がないなら、ホテルで過ごしたって一緒でしょ? どうせ今夜、1人になんてできないでしょ」
「――――……」
そうか。どうせ放っておくことが出来ないなら。
居場所はどこでも変わんねえか。
……媚薬効いてどうなるかはしらねえけど……タクシーとかも嫌だし。
「裏口から出ればホテル目の前だよ。そっちから出る?」
つかでも、やっぱり、嫌だ。
こんな先輩と、そういうことする部屋に2人とか。
何でかよく分かんねえけど、すげー嫌だ。
「――――……ん……」
少し唸って、先輩が身じろぎして。
すごくだるそうで。
オレは、ものすごいため息を付いてから。
「……はい。お願いします」
仕方なく頷いた。
リクさんは、何だか苦笑してから頷いた。
「あのさ、後輩くん」
「……はい?」
「――――……何の意図もないなら、助けてあげなよ。別に本番しろって言ってる訳じゃないよ、触るだけ。こんなにぐったりしてたら、自分ではできないだろうし。可哀想だから」
「……だから無」
「無理なのは、何か感情があるから?」
「――――……」
「むしろオレは、全然できるけど。ユキくんはイイ子だし、危ない目に遭わせたくないから、いつも絡んでるけど。そんな意味ないから、今非常事態だし、全然平気だけど」
無理、を遮られて言われた言葉に、何故か何も言い返せなくて。
「……まあ、ユキくんが自分で出来るなら良いけど。飲み物も全部は飲んでなかったから、どの程度効くか分かんないし。様子見だけど、苦しそうだったら。――――……君ができないなら、電話でオレを呼んでくれてもいいよ。朝まで店の予定だけど、少し位抜けられるから」
「――――……」
……それだけは絶対ねえけど。
そう思っていると、リクさんがぷ、と笑った。
「絶対呼ばないって思ってるよね?」
「――――……」
「はは。面白いなぁ。――――……まあ、いいや。裏口、案内するよ」
言われて、先輩の脇から肩を入れて、何とか立たせる。
おぶった状態でラブホとか、怪しまれそうだから、絶対無理。
「先輩、部屋入るまで、頑張って立ってて」
「……ぅん……」
かろうじて返事をするけど、目は開いてない。
裏口から出て、目の前のホテルを見上げる。
今からここ、入ると思うと。
ため息をつきたい気分に陥るが。
「リクさん。本当にありがとうございました。助けてくれて」
「うん、こちらこそ、電話くれて良かった。店的にもあんなの、ほんと迷惑だしね。後輩くんは名前、何て言うの?」
「四ノ宮です」
「四ノ宮くんね。 またユキくんと来てよ」
「――――……」
一緒にとなると色々複雑なので、とりあえず、頷いて置いた。
リクさんと別れて、ラブホの受付を済ませて。
ため息を付きながら、部屋を開けて中に入る。
――――……まさか、この人と、こんなとこ、入ることになるとは。
ため息しか、出てこない。
(2022/2/12)
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