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近くて遠い
「良かった」*大翔
しおりを挟むやっとクラブについて、入り口で代金を払って、中に入る。
さっき、先輩と話している途中で、急にすごい音がして。
スマホを落としたのかと思ったら、先輩の声で、電話返して、と聞こえた。
そのすぐ後に、眠剤がどーのという声がして、先輩の声がしなくなった。
即電話を切って、クラブに掛け直して、リクさんという人を出してもらった。ユキとかそういう名前の奴を知ってるか聞いたら。今日来てたけど、すぐ帰るって言ってたよ、なんて言うので、変な奴に連れていかれるかもしれないから、と頼んで、電話を繋げたまま、探してもらった。
案の定。連れて行かれそうになってた先輩を、見つけてくれて。
店のボディガード達と追い払って、先輩を捕まえといてもらえることにはなった。
それでも、薬がとか言ってたし心配だし――――……すげえ腹も立つけど。
人を避けて急いで店の奥まで進み、アルコールのカウンターの所にたどり着いた。
「あの、すみません」
「……あ、もしかして、さっきの電話の子かな?」
スラッとした長身の、すごく落ち着いたイメージの人で。
電話で落ち着いて対応してくれた声のイメージと重なって、ぴったり合致した。
「リクさんですか?」
「そう。ユキくん、ここ」
指差されたカウンターの向こう側を覗くと、
少し大きめの椅子に、先輩が座ってぐったり沈んでいた。
「いいよ、そこから入ってきて」
カウンターの中側に入って、先輩の側に膝をついた。反応なし。
「……寝てるんですか?」
「んー、すごくぼーっとしてる。君が来るまで待っててって、伝えてあるんだけど」
リクさんは、苦笑い。
「でもさっきから動かないから、寝てるのかも……」
「――――……先輩? 分かりますか?」
「――――……ん……」
ものすごいぼーっと、している。
腕を掴んで、オレの方を向かせる。
「分かります? 迎え、来ましたよ」
「――――…………しの、みや……」
「大丈夫? 気分は?」
「……うん。すごく、悪い……」
返って来た答えに、眉を顰めてしまう。
「つか、悪いのかよ……もう、ほんとに――――……」
ため息と共に言いながら。
でも、とりあえず良かった。
どこにも連れていかれないで、ここに、居てくれて。
リクさん、という名前を呼んでから、電話が切れてほんとに良かった。
名前が分からなかったらもしかしたら、間に合わなかったかも。
何か、顔赤いし。
「……にしてンだよ、もう――――……」
思わず呟くと。
リクさんが苦笑しながら、オレを見た。
「ユキくんが喧嘩しちゃった後輩って、君?」
「……喧嘩? ……ああ。まあ、そうかもしれないです……」
「その事で、なんか全然楽しめてなさそうで、今日はこのまま帰るって言ってたからさ。今日は、オレもユキくんの事、見てなかったんだよね。それに普段は、ユキくん、すごく気を付けてると思うんだけど……」
「――――……」
そっと差し出された何かを受け取る。
「――――……?」
薬の、ゴミ?
「アルコールと媚薬みたいな薬、飲まされたらしい。これがその薬のケースね」
「……媚薬?」
「多分今きいてんのはアルコールかな……飲んだことないんでしょ、ユキくん」
「酒は飲んでないって言ってましたけど」
「ジンジャーエールのお酒、飲んだこと無くて分からなかったのかも。2人組だったから、見てない間にすり替えられちゃったのかなーと思う」
「――――……」
「あいつらは出禁にしたからってユキくんに伝えといて」
「はい。……連れて帰りますね」
「ん。――――……あのさ」
「はい?」
「……この媚薬、多分発散しないと収まんないから…… 君が大丈夫なら手伝ってあげるのがいいと思うんだけど」
「は?――――……絶対無理です」
「――――……」
リクさんのとんでもない発言に即断ると。
ぷ、とリクさんは笑った。
「じゃあ、オレが引き取ろうか? 別に変な意味なく、助けてあげるけど」
「……は?」
何この人。渡す訳ねえだろ。
感謝も忘れて、思わず睨んでしまうと。
「――――……でもオレには渡したく無いわけね。……君って、分かりやすいのか、分かりにくいのか……よく分かんないね」
クスクス笑われる。
(2022/2/11)
◇ ◇ ◇ ◇
昨日、
作品紹介のタグを眺めて、想像しておいて頂けたら(;'∀')
と書いたんですけど……。
3サイト投稿してるけど、ちょっとずつ違ってたので、
大体合わせてあります(笑)
ドSエッチ、とか♡ その内溺愛、とか。そこらへんを何となく。
頭の端っこに……(*´ω`)♡
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