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近くて遠い

「楽しくない」*奏斗

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 クラブに来て、しばらく時間が経った。


「――――……」


 全然、楽しくない。
 相手を決めてない時は男女問わず、そこそこ誰かと話したりして、わりといつもは楽しいのに。


 四ノ宮のせいだ。

 ――――……ていうか。
 四ノ宮にあんな態度、取って、脱走してきた、自分のせい、だ。


「――――……」


 心配してるの、分かってたから、今まで言わずに来たのに。 

 ――――……抱き付いてるとか。そんなわけないじゃん。
 とか、なんか、ぷつ、と。

 キレるって、ろくな事ないよな……。はー。
 ――――……今頃どうしてるだろ。


 さっきの女の子と、どっか行く事にしたかな。
 ……それとも二次会、行ったかな。


 落ち込んでたり、してないよな……。
 ……どこに居てもいいけど、それが、気になって。

 全く楽しめない。


「ユキくん、元気ない?」
「リクさん、こんばんは」

 飲み物を持ってきてくれたリクさんに、一目で見抜かれる。


「……ちょっと、喧嘩?というか、言い合ってからここに来ちゃって」
「相手は? 彼氏はいないんだよね?」
「……後輩です」
「男の子?」

 頷くと、ふ、と笑った。

「彼氏になりそうな子?」
「そういうんじゃないんですけど――――…… ゲイがバレてて」
「何でバレたの?」

 クスクス笑われてしまう。

「男とホテル入るとこ見られて」
「うわ。……すごいバレ方だね。言い訳の余地もない」
「――――……そうですね」

 苦笑い。

「……で、オレがこうやって、男探すの、多分良く思ってないみたいで」
「ふうんー?」

「――――……心配し過ぎって言うか……」
「へえ……?」

「お前に関係ないって、言ってきちゃったんですけど……」


 はあ、とため息。
 リクさんは、ふうん?と笑って。それから、少しだけ黙って。

「あのさ、心配じゃなくて、ヤキモチって事はないの?」
「?」

「ヤキモチ」
「誰がですか」

 リクさんが何を言ってるのか分からなくて、普通に聞いたら、なんだかきょとんとされる。

「えーと。だから、後輩くんのは心配じゃなくて、ユキくんの相手にヤキモチ妬いてるとか?」

 え。そういう意味? 全然浮かばなかった。

「無いですよ、あいつ、ゲイじゃないんで」
「気づいてないだけとかは?」

「……何にですか??」

 さっきから、何だか全く意図が分からない。


「ゲイじゃなくても、ユキくんの事が好きだとか」
「――――……」


 えーと。
 ――――……無いな。無い。

「……ユキくん?」
「いや。びっくりすぎて、言葉が出なかっただけで」

「――――……無い?」
「無いと思います」

 はっきりきっぱり答えたら、リクさんは、ぷ、と笑い出した。


「相当無いと思ってるんだね。全然質問の意味、分かってくれないし」
「だって無いですもん」
 
「そっか。今日は相手見つける気無いのかな?」
「――――……今んとこ、その気になんないかも。なんか、意地みたいに、ここ来てやるって思って、来たんですけど……」


「まあ、無理しなくていんじゃない?」
「うん……そうですよね」


「楽しんでね」
「はーい」

 リクさんと別れて、飲み物持ったまま、隅っこに移動。


 ――――……ほんと。今日はもう、いいかな。
 
 ……四ノ宮に、電話……しようかなあ。
 でもなあ。


 ……あいつ、さすがに、さっきはすごいムカついたし、なぁ……。
 ほんとに誰でもいいとか。
 …………ほんとに、ひどいと思うんだけど。


 ――――……でもなー……。

 スマホを出して、四ノ宮の画面。



 どうしようかな、と思っていた所で。



「こんばんは」

 声をかけられて、視線を向けると、初めて見る奴。
 まあ、顔はイイけど……。


「1人?」
「……うん」


 ――――……やっぱりオレ、驚く程に乗り気じゃない。
 今日は、ほんと、やめといた方が良さそうだなぁ……。





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