81 / 553
近くて遠い
「楽しくない」*奏斗
しおりを挟むクラブに来て、しばらく時間が経った。
「――――……」
全然、楽しくない。
相手を決めてない時は男女問わず、そこそこ誰かと話したりして、わりといつもは楽しいのに。
四ノ宮のせいだ。
――――……ていうか。
四ノ宮にあんな態度、取って、脱走してきた、自分のせい、だ。
「――――……」
心配してるの、分かってたから、今まで言わずに来たのに。
――――……抱き付いてるとか。そんなわけないじゃん。
とか、なんか、ぷつ、と。
キレるって、ろくな事ないよな……。はー。
――――……今頃どうしてるだろ。
さっきの女の子と、どっか行く事にしたかな。
……それとも二次会、行ったかな。
落ち込んでたり、してないよな……。
……どこに居てもいいけど、それが、気になって。
全く楽しめない。
「ユキくん、元気ない?」
「リクさん、こんばんは」
飲み物を持ってきてくれたリクさんに、一目で見抜かれる。
「……ちょっと、喧嘩?というか、言い合ってからここに来ちゃって」
「相手は? 彼氏はいないんだよね?」
「……後輩です」
「男の子?」
頷くと、ふ、と笑った。
「彼氏になりそうな子?」
「そういうんじゃないんですけど――――…… ゲイがバレてて」
「何でバレたの?」
クスクス笑われてしまう。
「男とホテル入るとこ見られて」
「うわ。……すごいバレ方だね。言い訳の余地もない」
「――――……そうですね」
苦笑い。
「……で、オレがこうやって、男探すの、多分良く思ってないみたいで」
「ふうんー?」
「――――……心配し過ぎって言うか……」
「へえ……?」
「お前に関係ないって、言ってきちゃったんですけど……」
はあ、とため息。
リクさんは、ふうん?と笑って。それから、少しだけ黙って。
「あのさ、心配じゃなくて、ヤキモチって事はないの?」
「?」
「ヤキモチ」
「誰がですか」
リクさんが何を言ってるのか分からなくて、普通に聞いたら、なんだかきょとんとされる。
「えーと。だから、後輩くんのは心配じゃなくて、ユキくんの相手にヤキモチ妬いてるとか?」
え。そういう意味? 全然浮かばなかった。
「無いですよ、あいつ、ゲイじゃないんで」
「気づいてないだけとかは?」
「……何にですか??」
さっきから、何だか全く意図が分からない。
「ゲイじゃなくても、ユキくんの事が好きだとか」
「――――……」
えーと。
――――……無いな。無い。
「……ユキくん?」
「いや。びっくりすぎて、言葉が出なかっただけで」
「――――……無い?」
「無いと思います」
はっきりきっぱり答えたら、リクさんは、ぷ、と笑い出した。
「相当無いと思ってるんだね。全然質問の意味、分かってくれないし」
「だって無いですもん」
「そっか。今日は相手見つける気無いのかな?」
「――――……今んとこ、その気になんないかも。なんか、意地みたいに、ここ来てやるって思って、来たんですけど……」
「まあ、無理しなくていんじゃない?」
「うん……そうですよね」
「楽しんでね」
「はーい」
リクさんと別れて、飲み物持ったまま、隅っこに移動。
――――……ほんと。今日はもう、いいかな。
……四ノ宮に、電話……しようかなあ。
でもなあ。
……あいつ、さすがに、さっきはすごいムカついたし、なぁ……。
ほんとに誰でもいいとか。
…………ほんとに、ひどいと思うんだけど。
――――……でもなー……。
スマホを出して、四ノ宮の画面。
どうしようかな、と思っていた所で。
「こんばんは」
声をかけられて、視線を向けると、初めて見る奴。
まあ、顔はイイけど……。
「1人?」
「……うん」
――――……やっぱりオレ、驚く程に乗り気じゃない。
今日は、ほんと、やめといた方が良さそうだなぁ……。
62
お気に入りに追加
1,631
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる