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近くて遠い

「意味不明」*大翔

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 目の前で資料を黙々と読んでる先輩を、気づかれないように少しだけ目に映す。

 ――――……何が気になるんだろう。
 なんか、あの日、男とホテルに行くこの人を見た時から。

 オレの世界のかなりな部分を、この人が占めてる。


 あの日までは、そんな事は無かった。

 たいして絡んでもないのに、オレの外側が嘘っぽいと悟った人。
 何で察知されたんだか。とにかく、あんまり近寄りたくない。
 何なら早く卒業しないかな、なんて思ってたような。


 なのに。あの日
 ――――……男に、抱かれてるなんて知って、翌日色々話して協定なんてものを結んだあたりから。

 何でか。絡めば絡む程、気になって。
 いつもずっと、頭にある気がする。


 ――――……先輩は、よく、心配してくれなくていい、とか言うけど。

 ……心配、なのか?

 まあ、心配か――――……。

 変な奴に、どうかされないかっていう、確かにそんな心配が過ぎらなくもないけど。オレがずっと、この人が気になるのが、その「心配」だけなのかとなると、なんか違う気もするし。

 ……しかも。よく考えてみればこの人がしてる事なんて。

 ただ、ゲイの奴が、遊び相手求めてるっつーことで……。
 ――――……別にどうかなったって「自己責任」の話で。

 本来オレには、何の関係もない。

 ……多分、先輩じゃない奴が、もしそれをしてたからって。
 ――――……オレはこんな風に気にするのかって考えると。

 雪谷先輩じゃなかったら。気にしないんじゃないかと。


 そこでまた疑問。


 じゃあなんで?

 となるのだけれど。


 ――――……全然、分かんねえし。


 分かんねえけど。

 月曜に図書館に行ったのも。
 今オレがここで、特に今読みたくもない資料を読んでるのも。
 明日、別に何の実りも無さそうな、合コンに、参加するのも。

 ――――……先輩が居るからだ。

 「行きます」の前に、「先輩が行くなら」が必ず、入ってる。
 自分で、分かってる。

 ……分かってるけど、意味が分からない。

 何でなんだろう。

 ――――……オレは、ゲイじゃない。
 男に、ほんの少しだとしても、そんなような感情、持ったことが無い。


 男同士で、ヤるとか。
 ……今だって、ありえないって、思ってる。

 とくに、ヤられるとか。
 この人、何してンだよって。思う。


 ゲイじゃない。


 ――――……ってのに。

 ゲイのこの人が。気になって仕方ない。
 そんな自分が全く意味が分からない。


 はーほんとなんだかな……。
 ため息をつくと、目の前の先輩にバれるので、堪える。

「先生、ここにあるのが終わったら、終わりですか?」

 先輩が椿先生にそう聞いてる。
 PCからこっちを振り返る先生。

 何なんだろ、この、振り返るだけで、よく分かんないけど絵になる感じ。
 動きがなんか……なんか、なんだよなー。

 モデルとか? 役者とか? やってたのかな。
 見られる事を自然と意識してるみたいな感じに見える。

「ああ、終わりにしてもらっていいよ」
「分かりました」

 ……やっと終わりか。集中しよ……。
 手に持っていたのを済ませると、もうあとは先輩が読んでるやつだけ。

「オレの方終わりました……」

 そう言うと、先輩は、顔を上げずに答える。

「ん。オレのもこれで最後……」

 先輩が読み進めているので、オレは資料を先生の所に置いたり、片づけたりしてから、なんとなくスマホを見ながら先輩を待つ事にした。

 先生に別れを告げて、2人で歩き始めて。
 目や肩が疲れたと言う先輩。

 じゃあ食事が終わってからクラブに行くとかは無いかなと、咄嗟に思った。でも先週は木曜に行ってたし。まだ、分かんねぇなと思って。

 家に連れ帰ればいいのかと、ふと思って、家で食べようと聞いてみた。

 先生にもらった5000円で、また今度一緒に食べようとか言われた時は。
 なんだか――――……少しだけ。……先の約束が嬉しいような。

 ――――……ちょっと。
 ……ていうか、ものすごく、意味が分からない。





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