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近くて遠い

「心配?」*奏斗

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「――――……」

 お風呂に浸かって、はー、と息を付いた。
 固まってた肩や、疲れてた目が、解れていく。


 マンションの部屋の前についた時、料理手伝うよって、一応言ってみたけど、良いから風呂入ってきてくださいと断られて、部屋に消えていかれてしまった。
 なので、もう、しょうがないから言われた通りお風呂に入ってるけど。

 きもちーなあ……。
 ちゃぷん、とお湯をすくってみる。

 しばらく何も考えず、ぽけーとお風呂に浸かって。
 ある程度あったまってから、風呂から上がった。

 四ノ宮はお風呂入ってないだろうし、完全に部屋着もなーと思って、トレーナーとジーンズにした。髪を乾かしてから鍵とスマホを持って部屋を出る。


 隣のチャイムを鳴らすと、四ノ宮が出てきた。


「ちょーどよかった」

 四ノ宮が、ふ、と笑いながらドアを開けてくれた。

 こうして普通に笑われると。
 確かに、「王子」だなー、と。思う。

 顔良すぎて、ちょっと引く位。


「今出来たとこで、呼ぼうか考えたとこでした」
「早いね」
「座って」
「うん。わー、すげー美味そう」

 パスタとサラダとスープ。
 どっかの店の、コースみたい。

「飲み物は?」
「お水がいい」
「了解です」


 向かい合って座って、食べ始める。


「お世辞じゃなくて美味しい」
「そうですか。良かったです」

「何でお坊ちゃんなのに料理出来るの?」

 素朴な疑問をぶつけると、四ノ宮は苦笑い。

「葛城が、料理は出来た方が良いって信念をもってて」
「信念なの?」
「そう。とにかく、食事は生きる上で大事だから、1人でなんでも作れるようになれって」
「すごい。でも確かにそうだなーとは思う」
「先輩は作れます?」
「簡単なのだけ。凝ったものは作らない」

「ダメですよ、外食とか買い食いばっかだと。体に悪いから」
「……うん、分かった」

 クスクス笑いながら頷く。
 まるでお母さんみたい……なんて思いながら。

 たわいもない、ゼミの話や、ゼミのメンバーの話なんかして、割と楽しく食事が済んだ。

 一緒に洗う、と流しに立つ。

「先輩、後でコーヒー淹れてよ」
「うん。いーよ。コーヒーメーカーじゃないの?」
「どっちもあるけど、先輩が淹れて」

 そんな言い方に、ふ、と笑ってしまう。

「いーよ。洗ったらね。お湯だけ沸かしといてよ」

 そう言うと、水を火にかけて、流しに戻ってくる。オレが洗った食器を、四ノ宮が流していく。ふと、腕が目に入る。

「近くで見ると、腕、結構太いんだなー?」
「ん? ああ――――……筋トレはするから」

「オレ、してもあんまつかないから、しなくなっちゃったなー」
「した方が良いんじゃないですか? 手首、細すぎ」
「うるさいな」

 言わなきゃよかった、なんて思いながら黙ると、四ノ宮がクスクス笑ってる。

「そういえば、さっき、明日の合コンの連絡来てましたよ。見ました?」
「見てない。何て?」

「時間と場所とか。19時から」
「ふーん……」

 まあ後でみればいっか。と思っていたら。

「ほんとに行くんですか?」

 そんな風に聞かれた。
 ほんとに、て?

「うん、行こうと思ってるけど」
「でも、先輩女は対象外なんですよね?」

「うん、そうだけど――――……でもこの誘いは、もう結構前からだからさ。1回行っとく。それに別に、話したりするのは好きだし」
「でも女の方は、良い人見つけに来るんだろうし」

「――――……ていうか、四ノ宮、行くの?」
「行きますけど」

「何で? 行く必要なくない?」
「相川先輩が、お前は超イケメン枠だからって。よく分かんないけど、自分の友達に、自慢するんだそうです」
「……小太郎、言いそう……」

 アホだなーもう……。
 苦笑いが浮かんでしまう。


「あんまり女の子一人占めすんなよなー?」
「しませんよ。そんなこと」

 かなりはっきりそう言われて。咄嗟に疑問に思ってしまう。

「何で行くの、合コン。小太郎は確かに言いそうだけどさ。断る事も出来るだろ?」
「……別に。ていうか、オレ、よく合コン出ますよ」
「あ、そうなの?」

「良い子居れば、一晩――――……とかも、まあ明日のは出来なそうですけど」
「小太郎の友達だから?」
「面倒じゃないですか、相川先輩の知り合いと、変なことになって、もめたら」
「……まあ分かるけど。じゃあ行かなきゃ良いじゃん」

「先輩が行かないなら、行きませんけど」
「――――……」

 なんか、そのセリフには、何となく固まる。

 ……ああ、やっぱりそうなんだ。
 と、とっさに何も言葉が出てこない。

 何となく、思ってたけど。
 ――――……四ノ宮は、オレが行くから、行くんだ?

 ……何かよく分かんねえな。


「――――……何が心配なの、四ノ宮って、オレのこと……」
「心配?」

「……よく分かんないけど……なんか、オレの事すごい心配してるだろ?」
「――――……別に明日の合コンは、心配してる訳じゃないですけど……」

 まあ、そうか。
 ……女の子と、小太郎の友達が居る合コンで、心配することなんか、ないか。

 ……じゃあ何で、オレが行くなら行く、になんの?
 うーん。よく分かんないけど、聞いても答えは返ってこなそうな。


 洗い物を進めながら、んー、と困ってると。
 四ノ宮が、じっと見下ろしてくるので。


 「なに?」と聞きながら、思わず深いため息をついてしまった。





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