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近くて遠い

「変」*大翔

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 月曜に課題をやって、でっかい月を見ながら一緒に帰って。
 火曜水曜、先輩には会わなかった。
 木曜の午後だし、もう会うのは明日のゼミかな。そう思っていたら。

 椿先生と話している雪谷先輩を見かけた。


 ――――……楽しそうだよな。

 ……あの笑顔の下に、色んなもの、抱えて。
 ――――……元カレを思うだけで震えたり……混乱したり、その他諸々するようにはとても見えない笑顔で、先生と笑っている。


「ああ、四ノ宮くん」

 先輩はスマホを見ていて。先生がオレに気付いて呼びかけた。
 先生と話していると、先輩はオレの顔をじっと見て。

 ……なんかちょっと笑おうとしてる?

 ちら、と視線を流すと。少しだけ、あ、と気まずそうな顔。
 何ですか、と意味を込めてにっこり笑ってみせると、ちょっと苦笑いを見せてくるし。


 何なんだ。
 そう思っていると、椿先生に。
 
「あ。四ノ宮くんさ、今日放課後空いてるかい?」
「今日ですか?」

 明日のゼミに関係なく今日? 珍しいな。と思いながら返すと。
 
「うん。ちょっと論文の資料探しを、手伝ってくれる人を探してて。ユキくんは手伝ってくれるっていうから、あと1人2人、今から連絡してもらおうとしてたんだけど……」

 ――――……先輩もやんのか。
 そう聞いて。「オレやりましょうか?」と、すぐに言うと。
 先輩が、ふ、とまたオレを見上げてる。

「ああ、本当に?」

 先生が笑顔になる。

 ――――……この先生。すげえイケメンなんだよな。
 理知的というか。ものすごく頭の良さそうな――――……というか、良いのか。この若さで准教授だもんな。
 話し方も分かりやすいし、説得力もあるし。

 ――――……女子とかは、本気で憧れてる奴もいるらしく。
 過去振った女は履いて捨てる程居るとか居ないとか。

 ……まあ、居るだろうな。
 と、思わせる、このモテそうな雰囲気。

 一瞬で、その笑顔に対して色々考えて。


「良いですよ。先輩と2人で足りますか?」
「ユキくんと四ノ宮くんなら、大丈夫そうだね。ユキくん、もう連絡入れちゃった?」
「まだですけど」
「じゃあ良いよ。皆がたくさん来たいって言っても困るし」

 先生が冗談ぽく笑うと、先輩も、ふふ、と笑ってる。


「何限まで?」
「オレ今日4限です」

 先生の問いに、先輩がそう答えるので、「オレも4です」と言った。

「じゃあ4限が終わったら、部屋に来てくれる?」
「分かりました」

 先輩が頷いて、オレも同じように頷きかけて、あ、と思い出した。

「オレ、4限の教授が少し長くなること多いので――――……少し遅れるかもしれないです」

 いつもは多少遅れても、後は帰るだけなので全然気にしてないのだが。
 かなりの確率で延びてる気がする。その教室での次の授業がないから急がないのかもしれないが。
 雑談的な感じでもあるので、次の授業がある奴らが立ち上がり始めると、教授の話が終わったりする。


「ああ、良いよ。終わったら来てくれれば。じゃあ後で。よろしくね」

 椿先生が、まあ見事な感じに微笑んで、立ち去って行った。

 ちら、と先輩を見下ろすと。
 ――――……なんか、椿先生の事を見送ってる、ような気がする。

 先生を見送り終えたのか、ふ、とオレの視線に気づいて見上げてくる。
 全然普段会わないなぁ、なんて話になって。

 まあ。入学して今まで、全く会わなかったんだ。
 気づいたからって、頻繁に会うようになったら、おかしいよな。
 なんて思いながら話していたら。

「とりあえず4限終わったら先行ってる」

 先輩がそう言って離れようとした時。
 思わず呼び止めた。

「ん?」

 オレの言葉を待って、見上げてくる先輩に。

「先輩って、椿先生って、好みですか?」

 イケメンだし。頭良いし。入りたかった憧れのゼミの先生だもんな。
 しかも、あの先生。――――……多分、この人の事、結構可愛がってる。

「――――……はあああああ??」

 沈黙の後、先輩は、ものすごく嫌そうにそう言った。
 ――――……何だか、その、ものすごく嫌そうな返しに、少しほっとする。


「あの、さあ……」
「……はい」

「――――……超イケメンで、若いのに準教授で、頭良くて、声も良くて、背も高いし、完璧な人だなーと、思うけど」
「――――……」

 ムカ。

 すげえ褒めるし。前半部分はオレも思ってたけど。
 ――――……声も良くて? 完璧?

 やっぱり好みなんじゃねえの。
 と思っていたら。


「……身近なところで、好みとか、そういう意味では、見ないっつーの。そろそろ殴るよ?」

 最後の方は、少し睨まれる。
 ――――……ふーん、と返事をしながら。

「なんかじっと見送ってるから。好きなのかと思って」

 はっきり突っ込んでみたら。

「……そりゃ尊敬してるし、好きだけどさ。違うから」

 疲れたように言うから。
 ――――……まあ。そうなのかな、とも思って。

「オレが行ったら邪魔なのかなって思ったんですけど、じゃあ大丈夫ですね?」

 最終確認をしてみたら。

「……お前さぁ……ほんと、蹴るよ?」


 めちゃくちゃ嫌そうに言うので、じゃあその気はねえのかなと思って。
 そう思ったら、自然と、ぷっと笑っていた。


「じゃあまた後で、先輩」
「――――……うん。じゃーな」


 先輩と離れて、しばらくして振り返ると。
 ――――……多分今までこっちを向いてた先輩が、ちょうど、方向を変える所だった。

 あの人、ああやって人を見送る人なのかな。
 ――――……さっき、先生もやってたけど。



 オレの事も見送るんだなと思うと。
 ――――……ちょっと、落ち着いたような。




 …………変な感じ。





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