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近くて遠い
「ムせまくり」*奏斗
しおりを挟むめちゃくちゃムせだしたオレを、小太郎が振り返る。
「ん? 何してンの、ユキ」
「っ……っ……っ」
良いからオレの事はほっといてと目で合図しながら、口に手を当てて咳き込んでると、小太郎と反対側の友達らが笑う。
「何どしたのユキ」
「……ム、セた……」
けほけほ。
「何ですか、相川先輩」
――――……四ノ宮は、今日も死ぬほど爽やかだ。
めっちゃ優しそうな、王子な笑顔を浮かべて、昼食のトレイを手に、小太郎の前にきた。
むせながら、隣の奴に背を擦られながら。
オレは、なるべくしばらく顔を合わせたくなかった奴を、ちょっと見上げた。
……オレとしゃべってる時の仏頂面は今どこに……?
そう思いながらも、まだ咳き込んでる、バカなオレ……。
オレをチラ見してから、小太郎は、四ノ宮を見上げた。
「今日さ、4限の後、図書館で課題やらないか? 今回の難しかったろ?」
「……そうですね」
「お前もしかして終わった?」
「いえ、まだ――――……昨日は終わらなくて」
「じゃあ一緒にやろうぜ」
――――……バカ小太郎。なんで、誘うんだ。
別に全員誘う訳じゃないだろうし、後輩誘うなよ、同学年でいーじゃんか。
「……雪谷先輩も行くんですか?」
不意にこっちをまっすぐに見つめられて。
「けほ……っ……」
喋ろうとすると、また咳が出て、喋れない。
そしたら。小太郎が。
「ユキも来るよ。翠とかも来るし、他にも呼ぶから、他の1年にも聞いてみたら?」
「分かりました。聞いてみます。また後で連絡します」
「ん、おっけー」
まともに返事も出来ないまま、四ノ宮が小太郎にそう言って消えてくのを見守ってしまった。
しかも。
消える最後に、ちら、と視線を流されて。
う、とまた息、詰まるし。
「……んで、お前はさっきから、何むせてんの、ユキ」
苦笑いで小太郎に言われる。
だって、お前が、今一番会いたくない奴の名前を、オレの真横で大声で言うからだよっ!!
と、叫びたくなるけど。
「……サラダが……気管に……けほ……っ」
「ぷ。マヌケだな、ユキ」
ははは、と笑われる。
……お前のせーだけど。
「なあ、あいつだろー、『王子』」
一緒に座ってた奴らが、そう聞いてくる。
小太郎が、「そう、ほんと王子みたいだろ」なんて答えてる。
「オレのサークルの1年の女子も、あいつがカッコイイって、すげーうるせーの」
「いいよなー、顔良いって」
そんな事を言ってる2人。
小太郎は、バカだなお前ら、と笑った。
「あいつ、顔だけじゃなくて、超いい奴でさー、頭も良いし、スポーツも出来るらしいし、金持ちらしいし、ほんと、ガチで王子だから。 やっかんでも無駄だぜー」
――――……ほんと、お前、明るいな。
オレが、ゼミで過ごすうちに小太郎と仲良くなったのは、こーいう……。
分かりやすすぎるとこが好きで楽で。
なんていっても、思った事全部口にでるから。
しかも、それが出たからって、別に周りを傷つける事もない。
ほんと明るくて、良い奴。
そういうとこがすごい好きで、仲良くなった。
もう1人、すごく仲の良い翠も、こんな感じ。
小太郎と翠と居ると、なんか楽なんだよね。
高校までの友達を切ってるオレには、すごーく、大事な友達。
……にしても。
「何で四ノ宮まで誘うの? 2年だけで良くない?」
咳が止まってから聞くと。
「だって、四ノ宮、着眼点がすごいんだもん」
「――――……え、待って、さっき難しかったろ、とか言って……教えてあげるつもりなのかとちょっと思ったら」
「教えてもらう気満々」
「――――……」
ぷっと、吹き出してしまう。
まわりの皆も、何だよそれ、と笑ってる。
さっきまで、「王子」にぶつぶつ言ってた2人も、「だってあいつ、ほんとに頭いいんだもん」という小太郎の言葉に、もう笑っちゃってるし。
――――……ほんと。小太郎の側ってらくちん。
……にしても。小太郎のアホたれが頼って、四ノ宮呼んじゃったけど!
はー。
4限のあと、一緒に課題かー……。
謝りもできてない状況で、皆の前で話さないといけないのは、ちょっと、キツイなあ……。うーんうーんうーん……。
悩んでいたら、サラダを延々つついていて。
また皆に笑われることになってしまった。
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