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近くて遠い

「発散」*奏斗

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 夕方までなんとか頑張って、ゼミの課題をやっていたけど。
 もう、色々耐えられなくなって、家を出た。

「こんばんは、リクさん」
「ああ、ユキくん。こんばんはー」

 いつものクラブのバーテンのリクさん。通う内に話すようになった。
 この人は、バイ。それをさらっと言ってくれたから、何回目かに話した時、ゲイだと告白した。これまた、さらっと、そうなんだ、と言ってくれた。

 危なそうな奴の事、近寄らない方がいいよって、さりげなく教えてくれる。
 リクさんは情報通で、結構お客の事知ってる。めちゃくちゃ話しやすいから、皆がきっとリクさんに話すからなんだろうなーと思うけど。


「珍しいね、日曜に来るとか」
「……うん。ちょっと」

「やな事でもあった?」
「――――……うん、ちょっと」

「……発散しに来た?」
「――――……うん」

 そっか、と微笑む。
 ――――……リクさんにも、恋人は要らないって話だけはしてあって、意気投合したら、一回限りでオレがしてることも、知ってる。


「あそこの人、たまに来るけど、悪い噂は聞かないよ。好みなら」
「……あの人ゲイなの?」
「見えないよなー。でも、そうだよ」

 カウンターに座って、1人で飲んでる男の人。ちょっと年上、かな。

 ルックス超いい。リクさんと話しながら見てると、かわるがわる女の子達が誘いに来る。それを全部、優しい笑顔で断っていた。


 ――――……優しそう。慣れてそうだし。

 出来たら、何も考えられない位、上手な人が、いいな。



「……声かけてみる」
「んー」

 リクさんが、ふ、と笑んで、頷く。


「こんばんは」

 服も、時計も、高そう。イケメン。優しそう。少し年上っぽい。余裕があって。
 ……いいかも。

「――――……隣、座っても、いい?」

 その人は、オレをじっと見て。
 ふ、と笑った。

「……いいよ?」

 ありがと、と言って隣に座った。


 少し話して。
 誘い方もスマートで、嫌なところが無かった。


 ホテルに入って、先にシャワーを浴びて。
 ベッドで待つ。


 ――――……何でか。四ノ宮の、心配そうな顔が、浮かんだ。


 別に。完全に全く知らない奴とはしてない。
 大体リクさんか、過去にしたことのある奴とか。誰かが知ってる奴。
 まあ最終的な所は、変な奴じゃない、とう、自分の勘を信じるしかないけど。
 

 今迄、ゲイだって事がバレたくなくて、ほんと、周りばかり気にしてきた気がする。

 顔がこんなだから、特に女子に見られてる事が多くて。
 中学の時とかも、和希をよく見てるなんてバレたら困るから、和希を必要以上に見ちゃダメだ、とか。仲良くしすぎちゃダメだ、とか。

 高校になって、和希と付き合ってからも、バレちゃダメだって思ってた。

 自惚れとかじゃなくて、やたら見られることが多かったから、絶対バレないようにって。――――……もういっそ、バレないように1人部屋にこもって生きていきたいとか、思う事もあったけど。
 オレ、人と絡むのはどうしても好きで、そんな事も出来なかったし。

 普通の人以上に周りを気にして生きてきたから、人を見る目はあると思う。
 四ノ宮の笑顔が嘘っぽいと思ったのも――――……理由なんか無くて、直感だし。

 幸い、その直感は、今の所外れた事はなくて、ベッドの上でも怖い目にも、危ない目にも遭った事が無い。変な趣味の奴も居なかったし。


 絶対大丈夫だよとは言えないけど――――……。
 あんなに、心配、してくれなくてもいいのにな。

 そんな心配させちゃうとか。
 ……一度限りの色んな奴となんて、言わなきゃよかった。悪かったな……。


 あいつ、別に外面とっても、別にそんな悪い奴じゃないのに。
 まあ。たまにすごい不機嫌になるけど……それは、オレの事が理解できない、だけかもしれないし。


 ――――……そんな事、考えていたら、シャワーを浴び終えて、相手が出てきた。

 少し話しながら、すごく自然に押し倒される。





◇ ◇ ◇ ◇




「――――……っあ……」



 この人、めちゃくちゃ、上手だ。

 気持ちイイ。
 


「……イイね、君…… 気持ちいい?……」
「……うん。――――……気持ち、いい……」


「――――……可愛いね……」

 くす、と笑ったその人は、オレの脚を抱えて。
 一気に奥まで、突き入れてきた。


「……あ……ぅ、ん……っ」


 ……何も。
 このまま何も考えられなくなりたい。

 少しの間でも、良いから。


 思った時、ふと頬に触れられて、顔が近づいてきて――――……。



「――――……ご、めん……キスは……」
「……キスは嫌い?」

「……うん、あんまり……」
「ん、分かったよ」

 良かった。……分かってくれる人で。
 ちゅ、と頬にキスして、首筋にキスして――――……。


 どうしてもしたい人とは、するしかないと思ってるけど。
 ……キスは――――…… なるべくしたくない。


 そんなの、こだわってるって…… オレは、まだ――――……。






 
 そのまま、何も、考えないように。
 その行為に、集中、した。






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