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近くて遠い
「最悪」*大翔
しおりを挟む「――――……」
先輩が、帰って行って、静まり返った部屋でしばらく立ち尽くして。
――――……それから、玄関に、鍵をかけた。
部屋に戻って、ソファに浅く腰かけて。
――――……そのまま、横になって、天井を見上げた。
額に片手を押し当てて。前髪を掻き上げる。
「――――……」
さっきの会話全部――――……取り消せるなら取り消したい。
何で言ったんだ、あんな事。
先輩が恋人でもない奴にしよっちゅう抱かれてるのがすげえムカつく。
どうして、あんな事、言ったんだろう。
先輩の自由だ。オレには関係ない。
そう考えた、じゃねえか。……実際、オレが何か言うような事じゃない。
先輩の、自由だ。
案の定、先輩は、ものすごくムッとして。
四ノ宮だって引っ掛けた子と遊んでるんだろと言ってきた。
恋人じゃなくてもするだろ、と。
――――……先輩からしたら、当たり前の反応だ。
「オレは――――……良いんですよ、男だし」
――――……つか。
完全に言い方間違えた。
「先輩の相手が男だから、危なくないのか心配だから」
そう、言えば良かった。
それに。あんたが知らない男に、泣かされてるとか。
何だか許せない。――――……まあそっちは、さすがに……言えないけど。
「……はあ?? 何それ、オレは男じゃないっつーの?」
「……っそうじゃなくて」
「だって今そう言ったじゃん!」
言い方を間違えたのは、すぐに、分かったけど。
なんか――――……先輩があまりに、傷ついた顔をしているから。
言い訳めいた言葉が、何も口から出てこなかった。
「お前に、関係ないじゃん」
先輩の言葉に、その通りだと、思う。
分かってる。
オレが言ってる事は――――…… オレが言って良いセリフじゃない。
「帰る」
「――――……っ」
こんなんで、帰るとか。
――――……どうにか、止めたいんだけど。
何も、言葉が出てこない。
せめて。
男じゃないなんて、絶対思ってないって事を、伝えないと、と思うのに。
オレが言葉を吐きだすよりも先に。
「……だからオレ――――…… だれにも、知られたくなかったんだよ」
先輩の、呟いた言葉に、全部の言葉を奪われた。
何も返せないでいる内に、先輩は、部屋を出て行ってしまった。
――――……さっきの、傷ついた顔が、離れない。
こんなつもりじゃなかった。
――――……傷つけたいなんて、思ってなかったのに。
最悪。
ずいぶん長い時間、そのまま、倒れていたら。
スマホが、3回続けて、何かを通知した。
ため息をついて、立ち上がる。
スマホを確認すると、先輩だった。
「ごめん」
「心配してくれてたんだよな、ほんとごめん」
「オレまだおかしいみたいで。今日は会って謝るの、やめとく。ごめんな。また、学校で」
3回、続けて、入った全部に、「ごめん」が入ってた。
もうため息しか、出ねーし。
――――……ごめんて言うべきは、オレだし。
スマホを握り締めたまま、またソファに腰かける。
――――……何て送ろう。
それから延々ずっと考えたけれど。
――――……今の先輩は、多分。まだ動揺したまま、気持ちが不安定みたいだから。
言い訳じみた色んな事を、書かない方がいい気がした。
結局。
「言い方が悪くて、すみませんでした」
としか。
入れられなかった。
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