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近くて遠い

「ごめん」*奏斗

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 四ノ宮の家を出て来て、即、玄関で、へたり込んだ。


 ……うわ。
 大人げない。
 ……いや、オレ、辛うじて大人じゃないから……。

 先輩気ない……。そんな言葉あんのか。って違う。そんなこと言ってる場合じゃない。

 はー。

 もーだめだ。


 多分四ノ宮の、「男だから」っていうのは――――……。
 そう言う意味じゃない。

 多分あいつ、オレに、そんなこと、言わない。


 ――――……そしたら多分……。

 四ノ宮は自分が男で、女の子とそういう事するけど。
 オレが相手するのは男だから――――…… 危ないとか、そういうことかなと、浮かんだ。
 なんか、ちょっと心配してそうな事も言ってたもんな……。
 危ない奴に会ったことないの?とか。

 そう言う意味の「オレは男だから」なんだろうって気づいたのは、
 四ノ宮の家を出てから、うちに着くまでの、短い移動の間。


 でも、なんか、戻る気はしなくて。
 自分の家に入ってきたけど。


「あーもー…………」


 玄関上がったところで、仰向けに倒れたら。
 こないだ初めて見たばかりの、廊下の電気。


 ……また見てしまった。



 ――――……和希のせーだ……。


 なんかオレ。
 おかしくなってる。


 なんであんな事で頭に血がのぼって。

 いつもなら、四ノ宮がどんな意味で言ったか聞いたと思うのに。
 聞かず、勝手に嫌な意味で受け取って決めつけて、なんて。


 ……最低、オレ。


 和希の事――――…… さっき、落ち着いたと思って、四ノ宮のとこ行ったけど。多分、全然落ち着いてなかったんだ。

 今戻っても――――……四ノ宮とちゃんと話せる気がしない。


 もっとこじれそう。



 ……やっと。和希を思い出す事もなくなって。
 ずっと普通に過ごせてきたのに。


 ――――……何で、オレの連絡先、聞くの。

 母さんや真斗に聞くってことは――――……他の幼馴染や仲間にも聞いてんのかな。……オレに連絡してどーすんの。

 オレに謝る? 友達としてやり直したいとか、言う?



 ――――……冗談じゃないし。


 好きだと自覚したのは中学だったけど――――……小学校から、ずっと、一番好きだった。高校も一緒だったから、これでダメだったらどうしよう位の決死の告白を、和希が受けてくれて。オレも、好きだったって、言ってくれた。

 高校に入ってから、抱き合う事を覚えて。めちゃくちゃ、キスも、セックスも、した。

 ほんとに、ほんとに大好きで。
 ……和希も、オレを、多分、ものすごく、好きで。

 小さい頃からの思い出も、中学の片思いしながらの親友の記憶も、付き合ってからは、学校も部活も、その他の友達も。

 オレの世界、全部が和希に繋がってたのに。



 ――――……それがいきなり、オレの世界から、無くなって。
 

 立て直すのに、どれだけかかったか。
 ――――……しかも、同時に、父さんとの軋轢もうまれたし。


 母さんは父さんがあまりに凄かったから、積極的に認めてくれるというよりは、もう、心配して、様子をうかがってくる感じだった。

 
 オレ、もう、一番やばかった時は、死んでもいいかなとか思ってたけど。

 真斗がずーっと、オレの側に居たから。
 ――――……何とか、自分の中、立て直して。


 ここまで、頑張ってきた。
 恋愛とかも、完全に割り切って。

 ――――……でも、あまりに和希とのセックスに体が慣れちゃってて。どうしても、抱かれたくなる時が、あって。

 だけど、もう恋愛なんか、したくない。
 どうせ、別れることになるんだろうし。


 あんなに。好きで。好かれて。
 気が合って。元親友で。失いたくないって気持ちは、お互いものすごく強かったのに。

 あれ以上、好きになる事も、なってもらう事も、もう無いと思う位だったのに。


 それでも、だめだった。

 ――――……だったら、最初から、期待しない。
 


 だから――――……四ノ宮が、いくら、心配してくれても。
 心配しすぎて、ムカつくとかまで言ってくれてるんだろうけど。

 それは聞けない。


 戻って、さっきの話……そんなつもりじゃなかったよな、ごめん、て。
 言った方がいいとは思うんだけど――――……。

 なんかもう、きつくて。



「……ごめん…………」

 届かないのは分かってるんたけど。
 目を手で覆って、ため息とともに。そう言って。



 言っても届かない無駄な言葉が、空中で消えていく。





 しばらく、起き上がれなかった。







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