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1ミリ近づいて

「初恋の相手」*奏斗

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 ――――……四ノ宮、絶対変に思ったよな……。


 四ノ宮を帰して、結構な時間が経った。


 ずっとソファに俯せになって、動かずに過ごして。
 ――――……やっと、落ち着いて、起き上がった。


 久しぶりに聞いた名前。
 ――――……あんなに動揺するなんて、自分でも驚いた。

 もう、吹っ切ったと思ってたのに。
 もう、その顔を思い返す事も、無くなっていたのに。


 真斗からの電話で言われたのは。

 和希くんに会った。カナの連絡先を聞かれたから、断った。
 カナは今幸せだから、邪魔しないであげてって言っといた。
 母さんに電話して聞いたら、和希くん、大学からこっちに帰ってきたんだって。
 母さんも、こないだ会って、カナの連絡先聞かれて、断ったって。

 そういう話、だった。


 松本 和希まつもと かずき
 ――――……オレの小学校からの幼馴染で初恋の相手で、初めて付き合った相手。
 大好きだった奴で――――…… それから、失恋の、相手。

 父さんに見られたオレのキスの相手が和希で、別れたっていうのを母さんも知ってる。



 あんな別れ方をして――――……。
 涙も止められない、笑う事もできない、なんて、思ってたけど。


 ――――……時間って、すごいもので。

 痛みも次第に和らいで。
 
 泣かなくなって、笑えるようにもなった。




 もうだいぶ、忘れたと思ってたのに。

 連絡を取ろうとしてる? 何で? 
 思った瞬間。

 手が震えた。
 心臓が、震えて。

 自分でもどんな感情か、分からなかったけど。
 ――――……何もまともに考えられなくなって。


 とにかく――――……母さんと真斗が言わなきゃ、カズに………和希に、伝わるはずはない。和希が地元に帰ってきてたんだとしても……よかった、こっちに引っ越してきてて。

 遠くはないけど、こんな何もない駅、大学が無かったら降りないはず。

 高校卒業した時点で、スマホを新しくして、誰にも連絡先、教えてないから。小、中学や高校の集まりの連絡もない。でもそのかわり、和希のことも入ってこないですむ。

 ラッキーな事に、地元の仲の良い奴は、大学には居なかったし。

 友達を切るのはつらかったけど――――……。

 ……幼馴染って、ほんと厄介で。
 皆、オレと和希が親友だと思ってるから。

 和希絡みの友達や仲間が多すぎて。辛くて。

 
 いつか完全に吹っ切れて、どこかで和希に会っても大丈夫となったら、皆に、スマホ変えたんだって連絡しようと決めて、関係を一旦全部断つことを決めた。

 ――――……いまもまだ、皆に連絡が出来ない。


 大分ふっきって、思い出さなくなってたけど。


 ――――……さっきの自分を思うと、まだ無理そうだなーと、嫌になる。



 もし――――……。これだけ離れても、もし万一。
 どこかでいつか、和希に会ってしまったら。


 言葉は交わさない。
 顔も、見ない。
 そうしよう。


 そう、決めて。
 はー、と息をついた。


 少し落ち着いて、手の震えは、収まった。鼓動も。普通になった。


 なんであんなに、震えたんだろう。



 ……オレ、まだ――――…… あいつの、こと……。



 一瞬過ぎった想いは、ぶるっと首を振って、形にはしなかった。


 
 ――――……あー。さっき。


 びっくりしたなー……。



 玄関で四ノ宮、見上げた時。


 あいつって、和希にちょっと似てるんだな……。
 雰囲気、かなあ……。

 顔がすごく似てるって訳じゃない。
 ――――……ここ数日じっと見つめてたけど、思わなかったし。



 オレを心配そうに見下ろした、顔に。
 ――――……一瞬、和希がよぎって。

 和希の事で動揺してたからかな。
 
 手、振り払っちゃった――――……。
 ……悪かったな……。


 しかも救急箱、置いて帰っちゃったし。
 ――――……オレの動揺が、四ノ宮にも移っちゃったとしか思えない。



 ――――……返しに行こ。あと謝ろ。
 ……なんか。お詫び……。

 うーん。お詫び……。
 今うちに何もないなー。んー。


 しょーがない。
 とりあえず、謝りに行くか。


 普通に笑顔でいこ。

 さっきのこと――――……絶対気にしてるだろうし。









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