【初恋よりも甘い恋なんて】本編完結・番外編中💖

悠里

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1ミリ近づいて

「痛み」*大翔

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 ふっと、先輩が急に、顔を上げた。
 その一瞬で、雰囲気が変わった。

「つか、何で実家の事とか、聞くんだよ」
「は?」

 ぶー、と膨れて。多分、敢えて明るく、そんな風に言う。


「……なんかあまりに自然に聞くから、普通にこんな暗い話しちゃったじゃん! ごめんな、なんか暗くなって」

 ――――……さっきまでの雰囲気を自ら吹き飛ばして、そんな風に言う。


「……先輩、別に嫌な事は、話さなくても良いですからね」
「――――……え」

「協定って、別にそんな事にしたつもりないですから」
「――――……」


「他では話せなくて、ほんとは誰かに言いたいって事なら、聞きますけど」


 別に話したくない事まで、聞かれたからって話さなくてもいいのに。
 苦笑いでそう伝えると。

 先輩は、少し、首を傾げて、オレを見つめた。


「……わかんないな。真斗以外とこんな話するの初めてだし」
「――――……」


「もしかしたら、聞いてほしかったのかもしんない……」

 また静かに、視線が落ちた。

 ああ、なんかオレまた余計な事言ったかな。
 せっかく戻ってた先輩の笑顔が、また――――……。


 ――――……ズキ、と奥が痛い。
 さっき、先輩の笑顔を見ていた時に感じた、ちくっと刺さるみたいなのとは違う痛み。

 先輩が泣いてると、奥が、重く痛い。


「……あのさ、先輩」

「――――……うん?」

「……息子がゲイって知らずにキスシーンなんか見たら、頭の固い親父たちの年齢じゃ、しばらくは受け入れられない人も居ますよ。時間がいるんですよ」

「――――……」


「そんなんで落ち込む事はないですよ。先輩が自分で、もうゲイってとこは譲れないっつーなら、迷わなくていいじゃん。親父さんだって、ほんとは認めたいけど、息子が男とってのを認められないだけだと思うし」


 オレが――――…… あんたが男と。男に、抱かれるとか。しかも、恋人じゃなくて、見知らぬ他人に、乱されるとか、泣かされるとか、全然許せる気がしないのと、同じように。

 そんなの本人の嗜好の話で、それが良いって本人が言ってるなら仕方ないって分かってても、認めたくないとか、オレが今、思うみたいに。


 先輩は、しばらく、ぽかん、とオレを見つめていたけれど。


「――――……うん……分かってる。時間が必要だって…真斗にも、自分でも
言ってる、し……」

 ぽつぽつと、そう言って。テーブルの上で合わせた手を心許なく握っていた。その手を何となく見つめていたら。そこに、急に、ぽつん、と雫。


 え。


 まさかと思って先輩の顔に視線を向けると。


「…………っ」

 また、泣くし。
 ――――……ほんと、泣きすぎ。 

 メンタル……弱ってんじゃねえの?


 大学ではいつでもキラキラしてんのに。
 俺なんかより、よっぽどこの人の方が、外を繕ってる気がしてきた。



「――――……」

 テーブルの隅にあるティッシュのケースを、先輩の前に置くと。


「ありがと」

 と言って、涙を拭いて、汚い感じで鼻を噛んでる。


「どんだけ鼻水……」

 苦笑いを浮かべてしまうと。


 ……涙目の先輩が、それでも何だか笑顔で。


「……四ノ宮、ほんと優しいな」

 クスクス笑い出す。


「泣いてんのに、何、笑ってんですか……」

 呆れて言うと、ごめん、と笑う。


「ごめん、なんか――――…… 色々、お前に隠そうって気が無くなってるかも」
「――――……」

「泣くのとか……普段なら絶対無いのに」
「――――……」


「ごめん、気を付けるから」


 やっと色々拭き終わってティッシュを持って立ち上がる。
 ごみに捨ててから、戻ってきて、目の前に座り直した。


「――――……あんたが泣いても気にしないからいいですよ」
「……気にしないって」

 くす、と笑う先輩。



「なんかもう結構何回も見てるし――――……隠さなくて、大丈夫ですよ」
「――――……」



 少しだけ唇を噛んだまま。 
 ん、と頷いて。それから、ふ、と笑って。


「――――……うん」



 先輩は、少し嬉しそうに笑って。
 小さく、頷いた。




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