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1ミリ近づいて

「変な感覚」*大翔

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 コーヒーを淹れながら、あ、と先輩がオレを見上げた。

「四ノ宮、朝ごはん早かった?」
「……まあ。2時間位前ですかね」

「目玉焼きパン食べる?」
「……何ですかそれ」

 楽しそうに言うけど、その名前のパンは食べた事がない。

「食パンに目玉焼きのっけるの。チーズと」
「……朝クロワッサン食べたんですけど」

「要らない? 美味しいよ?」
「……食べてみます」

 あんまり楽しそうなので、そう言ったら、了解と先輩が笑う。
 コーヒーを淹れ終えて、2つのマグカップに淹れた先輩。

「牛乳とか入れる?」
「いらないです」

「じゃあ、はい」

 目の前に、マグカップを渡される。

「座って飲んでていいよ」
「ここで良いです」

 カウンターに軽くよっかかったまま、オレは、コーヒーを啜った。

「……美味しいです」
「うん」

 嬉しそうに、にっこり笑う。自分も一口飲んで、先輩はマグカップを置くと、冷蔵庫を開けて卵を出してきた。

「クロワッサンって、おかずは?」
「ハムとレタス挟みましたけど」

「なんかオシャレ……」
「そうですか?」

「んー、嫌がるかなー、目玉焼きパン」

 クスクス笑いながら、先輩は目玉焼きを焼きながら、食パンもトースターに入れる。

「卵、固め? 半熟?」
「半熟で」
「オレも」

 嬉しそうな顔で笑って火を止めるとスライスチーズを置いて蓋をしめて、焼けたパンにバターを塗ってる。


 食パンの上に、溶けたチーズの乗った目玉焼きをするん、とのせて、先輩は出来た、と笑った。

 両手にパンの皿を持ちながら、先輩は振り返る。


「座ろ―、あ、オレのマグカップも持ってきて?」
「はい」

 一緒にテーブルについて。

「いただきまーす」

 ぱく、と先輩がパンにかじりついてる。

 はーオレ。
 何で、朝飯2回目、食べることになってンのかな……。


「……いただきます」
「うん、どーぞ」

 目の前で、ふ、と笑む先輩。
 ぱく、と口に入れると。


「……うま」

 目玉焼きのっけただけなのに。

「うまい?」
 食べながら、頷くと、先輩は、嬉しそうに笑った。


 ちく。
 ――――……体の奥で何かが痛い。

 首を傾げる。



 何だ、これ。
 変な感覚。

 その正体はよく分からないまま。
 このパンね、真斗が好きでさ、部活の前とかちょっと腹減ったとかの時に、よく作ってあげててさー、とか。そんな事を楽しそうに話す先輩に軽く返事をしながら、食べ終えた。

「ごちそうさまでした。美味しかったです」
「良かった」

 ふ、と笑う先輩。

「ほんと、仲いいんですね、兄弟」
「まあ。高2で父さんにバレて反対された時、すげー庇ってくれたの真斗だし。まあもちろん、そこまでも仲良かったから庇ってくれたんだろうけどさ……」
「……何で父親にバレるとかしたんですか?」
「あー……キスしてるとこ、見られたんだよね」
「――――……」

 何してんだ、この人……。
 外でしてたってこと? 高校生とは言え……男女のカップルじゃないんだから、警戒心無さ過ぎ。

 それで大変だったから今、すげえ警戒してんのか……?


「先輩、実家は遠いんですか?」
「ううん。電車乗ればすぐだよ」
「え?」

 じゃあなんで一人暮らし?
 思ったのが伝わったんだろう。先輩は笑った。

「……バレた時から父さん、オレにきつかったし、それで家が雰囲気悪くて。母さんや真斗にとっても。……父さんにとっても、オレを見たくないだろうし。大学入る時、頼んでみたんだ。そしたら、ここ、借りてくれたから……」

「――――……」

「まあ……母さんに頼んで、父さんに話してくれて、ここ借りてくれたって聞いた時は複雑だったけどね」
「――――……」

「父さんには、オレとの関係どうにかする気は無いんだなーって思って。……一人暮らしすればイイって、思ったんだなって……」

 少し俯きながら、そんな風に言う先輩。


 何だかな。
 ――――……いつもの、アイドルみたいなオーラの、キラキラした笑顔。

 今はすっかり落ち着いてて。
 ともすれば消えてしまいそうにも、見える。



 ――――……なんか普段とは別人みたいで。


 こんなの見たくないなとも思う一方で。


 あまり他には見せないんだと思うと。
 また別の感覚が、胸に渦巻く気が、する。




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