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1ミリ近づいて

「人が好い」*大翔

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 涙に、全然関係ない事でモヤついてる間に、映画が終わった。
 その間も、ところどころ泣いてる。

 ――――……何度も見たい位、好きな映画だし、感動はするけど。
 こんなに素直に泣けるものかと、ちょっと呆れてしまう。
 しかも、オレ、居るのに。関係ないんだな……。


 エンドロールが流れ始めても。
 余韻に浸ってます、て顔して。全然動かない。


 ――――……なんだかなー……。ほんと。わかんね。

 で、何でオレは、そんなこの人を、見てンだ。


 ……不思議な位、素直だから……かな。

 ゲイで。多分恋人が要らないって頑なになるような事があって。
 父親に反対されて?
 クラブで男探すような真似して、一晩限りで寝て。

 なんか、頑ななとこあるくせに。
 ……なんかものすごく素直で、こんな風に泣くとか。


 ――――……何なんだ。

 感情が、整理できない。


 オレがムカつくような事じゃない、そう思うのに。

 エンドロールを見終えた先輩が少しして、オレを振り返った。


「……泣いた?」
「――――……いえ」

「泣かないの?」
「……人が居ると泣けないです」

 こんだけ泣いてる人を前にすると、泣かないと罪みたいな気がして。
 思わず、泣かない理由を作って、そう言ってしまった。

 すると、え、という顔をして、先輩は固まっている。


「あ……ごめんな?」
「え?」

「貸してあげればよかったね。明日観るなら持って帰っていいよ」
「――――……」

 オレが、先輩が居るから泣けなかったんだと信じて。
 
 ごめんな。貸してあげればよかったね、だって。


 優しい人なんだろうなと、思う。


 思わず、ふ、と笑んでしまった。


「――――……いいです。細かいとこは思い出せたんで」


 そう答えたら、先輩はん、と頷きながら。


「なあ四ノ宮?」
「はい?」

「……素を出しても、お前からそんなに人、離れないと思うけど」
「――――……」


「離れる奴は、それでいいじゃん?と、ちょっと思ったんだけど……」


 ――――……は……。ほんとに、人が良い。
 なんか、騙されそうだなぁ……。


「あ。ごめん……余計な事……だった?」

「――――……先輩がゲイっていうの言っても、人、そこまで離れないと思いますけど」


 オレの事、言う前に、自分の事考えればいいのに。


 オレの外面に気付いたのは、自分がゲイなのを隠したいから、それで周りに気を配ってたからだって、言ってた。

 そんな、オレのこんなのまで気づくほど、周りに気を使ってまで、ゲイって今時隠さないといけないのか?
 性の多様化を認める動きは、最近とくに大きい。
 多分、ゲイだからってそれを差別したら、差別した奴が責められるような風潮。

 それでも、多数派を良しとするこの国だから、まあ、知られたくないというのは分からなくもないが。

 でも、この人がこの見た目でゲイだと言っても、あーそうなんだ、位じゃないだろうか。


 ……オレはこの人がゲイって事が受け入れられないんじゃなくて……。


 なんでだか……抱かれてるとか。そんなことが。 
 あり得ないと思うだけで。


 ゲイだからって大したことはない。
 そんなに、必死な思いして、隠さなくたっていいのに。
 

 そう思って言ったんだけれど。
 先輩は、どう思ったのか、長い沈黙。



「……ごめん、今の無し。 ……隠したい事、それぞれ違うよな」



 ――――……無し?
 ……まあ、言いたくはない、てことか。


 ……まあ。分かるけど。

 オレが黙っていたら、先輩は、不意に何を思ったんだか。




「とりあえずオレは、お前の素がどんなでも、居るから安心して」

 そう言った。

 ……何言ってんだろ。この人。




「協定結んだもんな」


 まっすぐな視線を向けてきて、にこ、と微笑む。



 はーもう。
 ――――……すげえでっかいため息を付きたい。



 何なの、この人。


 言う事、なんか本当に予想外で、ほんと――――……。





 なんか、中を、揺さぶられる。





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