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1ミリ近づいて
「運命的な」*奏斗
しおりを挟む――――……余韻にじーんと浸りながらエンドロールを見終えて。
ふと、四ノ宮を振り返ってみると。
なんだかとっても無表情。
「……泣いた?」
「――――……いえ」
「泣かないの?」
「……人が居ると泣けないです」
そう言われて、はた、と固まる。
うわー……。
なんか、四ノ宮、めっちゃくちゃそれっぽい。
よく考えなくても、そういうタイプじゃんか……。
「あ……ごめんな?」
「え?」
「貸してあげればよかったね。明日観るなら持って帰っていいよ」
「――――……」
ふ、と。
なんか、今度は、少し、笑った。
「――――……」
今の笑った感じは、結構良いかも。
嘘っぽくなくて。
――――……自然と、笑ったって感じ……。
……何で笑ったのかな? 貸してあげるっつったから???
「――――……いいです。細かいとこは思い出せたんで」
その返事を聞いて頷きつつ。
オレは、んー、と考えながら。
「なあ四ノ宮?」
「はい?」
「……素を出しても、お前からそんなに人、離れないと思うけど」
「――――……」
「離れる奴は、それでいいじゃん?と、ちょっと思ったんだけど……」
あ。
……すげえ固まってしまった。
「あ。ごめん……余計な事……だった?」
「――――……先輩がゲイっていうの言っても、人、そこまで離れないと思いますけど」
「――――……」
えーーーと。
……これは。
…………余計な事言ったから、ちょっと怒って、そのまんま、返されちゃった感じなのかな……?
「……ごめん、今の無し。 ……隠したい事、それぞれ違うよな」
地雷がどこか分かるまで、余計な事言うのやめとこ……。
反省しながらも。
これだけは言っておこうかなと思って、四ノ宮を見つめた。
「とりあえずオレは、お前の素がどんなでも、居るから安心して」
「――――……」
「協定結んだもんな」
さっきも言った気がするけど、とりあえずもう一度改めて。
そう言って、まっすぐ見つめた。
……ちょっと性質の悪い、弟が出来たと思って、頑張るから!
真斗よりだいぶ、癖が強い気がするけど。
……と、心の中だけで、つぶやきつつ。
何となく自分の中で、決意を新たにする。
……何でこんな決意してんだって、ちょっと自分でも可笑しく思わなくもないけど。
あの時、ホテルで見られて。
そいつの家が、隣だった、とか。
しかも、3か月近く会わなかったのに、あのタイミングで、遭遇するとか。
もうそういうのって、ある意味運命的な物なんじゃないかって、思ってしまう。
――――……なんか。
こいつが、少しは素が出せるように、楽になれるように。
オレが大学で関わってあげられる間に、
少しでも楽にしてあげられたらいいなあ。
と、思ってしまったんだから、しょうがない。
なんか、顔見てると、めちゃくちゃイケメンなのに。
皆に完璧な王子とか思われちゃってるのに。
……ていうか、思われてるから余計にこうなってんのかな。
何とも言えない複雑な想いで、その顔を見つめてしまった。
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