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1ミリ近づいて

「気づかない振り」*奏斗

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 真斗の話をしていたら、四ノ宮は、よく分からない硬直。
 それを聞こうと思ったら、ものすごい嫌な顔をして、その後ポーカーフェイスになってしまった。

 ……ほんと。おもしろ。


「弟、仲いいんですね」
「うん。仲いいよ」

「……何で体痛いんですか?」
「バスケ。今日1日付き合ってたの」


 そう言ったら、眉を顰めたまま、オレを見てくる。
 かと思ったら。

「…………ち。」

 急に舌打ち。

「え?」
 ほんと、全然意味わかんない。

「え、今舌打ちした?」
「してません」

「ちって言った?」
「言ってません」


「言ったよね?? え、今の会話のどこに舌打ちポイントがあんの?」

 何なの、こいつ。
 ほんと、思わず舌打ちしたって感じ。――――……何か、すごく気に食わない事があったって事だよね?

 え、今の会話に何が??
 もう聞きたくてしょうがなくて。

 舌打ちがムカつくとかそんなのは無く、ただ、何で舌打ちしたのか、理由を聞いてみたい。

 四ノ宮って、ほんと不思議。

 少し前まで不気味だった後輩は、もはや、オレの中で、すごい興味の対象になったみたいで。

 とりあえず、硬直や舌打ちの理由を聞きたい。
 のだけれど。

 鉄壁の王子用に作る事ができるらしい、ポーカーフェイス。
 うーん、ポーカーフェイスと言うには――――……すごく、嫌そうではあるけれど。

 とにかく、嫌そうって事以外、何も、読み取れない。


 話す気、無さそうだな。
 苦笑いが浮かびそうになっていたら。

 コーヒーを飲んだ四ノ宮が、あ、と、少し驚いた顔をした。


「これ、先輩が淹れたんですよね?」
「……ていうか、オレ一人暮らしだから、オレしか居ないけど」

 くす、と笑ってしまう。
 今、美味しい、って顔、した。


「何、そんなにうまい?」
「……はい」

「コーヒーメーカー使ったけどねー。でも直前に挽いてるし、豆の味が合ったんじゃない? 良かった。アイス食べるからちょっと苦めのにしたんだけど」
「美味しいです」

「そかそか」

 ふふ、と笑って、自分もコーヒーを飲む。

 ――――……美味しいコーヒーを飲む時が、一番落ち着く。

 なんかその味を、四ノ宮も美味しいって言ってくれて。
 嬉しいなあ、なんて思っていたら。


 真斗の事をいくつか質問された。年とか、名前の漢字とか。

 思わず、それ本当に聞きたいの?と笑ってしまった。
 何が聞きたかったんだか、全然分からない。


 もう少し仲良くならないと、全部は話してくれないのかもなあ……。


 あ――――…… 話すと言えば。思い出した。
 

「あ。そうだ。四ノ宮に言っときたい事があったんだけど」

「――――……何ですか?」
「……あのさあ……」

「はい」

 ものすごく言い辛いが。
 言っておくしかない。


「……あのさ、お前さ? オレがさ」
「はい」

「……すっごい、色んな奴と遊んでると……思ってない?」
「――――……」

 そう言ったら、完全に動きを止めてしまった。


「あ。なんか呆れてるだろ」

 そう聞くと、どうして分かったんだろう的な顔。

 オレが相当遊んでいると思ってるらしい四ノ宮に、とにかく、そんな事は無いって事を伝えた。
 すると、飛んできたのは。


「……恋人、作らないんですか?」

 ――――……そんな質問で。


 オレは。
 ――――……もう、それ以上は何も聞かれないように。
 これ以上は、踏み込まれないように。



「うん。要らないから」


 そう言って、会話を断ち切った。



 すると、四ノ宮は、相当ムッとした表情。

 すごく、分かりやすい。
 これはもう――――……隠そうとしてない気がする。

 でも。
 ――――……この話、掘り下げたくないし。


 ものすごく、ムッとした顔に。
 オレは、気づかない振りをするしか、無かった。





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