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1ミリ近づいて

「変な縁」*大翔

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 気分が悪いから、シャワーを浴びた。
 すっきり――――……したはずなのに、まだダメだ。


 ……体が痛いって、マジでそういう理由なのかな。

 そういうコトが原因で痛いなら、あんな風に普通に言うか?

 違うんじゃねえかなとも少し思ったけど――――……。
 ムカついて聞かずに帰ってきたら、ますます、ムカつきばかりが増していく。

 会うか。
 隣に居るんだし。

 ……アイスくれるっつってたよな。


 ――――……スマホのゼミのグループから、先輩の連絡先を、個別に友達登録した。一瞬躊躇うけれど、このモヤモヤを排除しないと、安眠できそうにない。 こんな事、何で気になるんだとも、死ぬほど謎だったけれど。


 覚悟を決めて、通話ボタンを押した。

『もしもし?』
「あ、先輩ですか?」
『うん』

 呑気な声色。

 あほらしくなってくる。
 が。

 やっぱり気になるものは気になる。



「あの……」
『……うん??』

 少し沈黙してしまう。なんか――――……このセリフ、絶対言ったら、笑われそうで。 でもそれ以外に用事もない。

「――――……やっぱり、アイスもらえますか?」
『え?』

 すぐに、ぷ、と吹き出す先輩。

『急に電話してくるから、何かと思ったら――――……』

 クックッと笑われて。

『アイス、食べたくなっちゃったの?』

 めちゃくちゃからかうように、そう言われる。

 ――――……絶対こうなるとは思ったけど。


 ムカつくなー。くそ。

 少し沈黙した後。



「オレ普段あんまり食べないんで、家には無くて」



 家にアイスはあるけれど。
 もう、そう言うしかない。


『うん、いーよ、取りに来なよ。好きなの選んで――――……つか、コーヒー淹れてるし、食べにくる?』

「コーヒー?」

『いつも多めに淹れちゃうから、四ノ宮の分もあるよ』


 玄関先で聞けるか疑問だったので――――……その申し出は、ラッキーだ。


「――――……ほんとに、行っていいんですか?」

『うん、別にいーよ』


 一昨日、話すまで、オレの事をうさんくさいって思ってたくせに。

 ……家に来ていーよ、とか。 ……信用しすぎ。

 ほんと。……人が良いな。
 騙されそうで――――…… なんかすこし、気にかかる位。


「じゃあ……行きます」
『うん。すぐ来る?』

「シャワー浴びたとこなんで、髪乾かしたら行きますね」
『ん。コーヒーって、ブラック?』

「はい」
『じゃあ待ってる』


 通話が終了すると同時に、スマホを置いて、ドライヤーをかける。

 これでその件、確認できたとして。

 部屋に来てたあのイケメンと、ヤりすぎて体が痛いとか、平然と言われる可能性もある訳で。

 …………そしたら、どうしてくれよーか。
 

 ……って、どうもできねーけど。
 ……関係ねーし。


 髪が乾いたのですぐに、鍵とスマホだけ手に取って、隣の部屋に向かう。

 チャイムを鳴らすと、鍵が開いて、先輩が顔をのぞかせる。


 ――――……隣に、この人が居るって事、入ってくとこも見たし、分かってはいたんだけど。

 迎え入れられると、ほんとに居るんだな、なんて改めて思った。

 ……変な縁。
 
 
 思いながら挨拶をして中に入り、部屋の感じを見ると、間取りは一緒。ただ黒っぽいオレの部屋と違って、なんだかやたら明るい。白基調の家具だと、こうなるのかと、興味深く見回した。

 なんか、すげえ、この人っぽい部屋。
 ゲイだって事だけはひたすら隠してるけど、それ以外は駄々洩れで、意見とかも、ものすごいまっすぐ。

 まわりの人らが、皆そろって、この人を可愛がってるのは知ってる。
 ゼミの教授や、世話に来る3,4年生、先輩の同学年たち。

 大学でたまに見かける時も、人に囲まれてて、心底楽しそうな感じで笑ってる。

 顔はほんと――――……よく見るアイドルなんかより、よっぽど可愛いんじゃねえかなとは思う。それが、あんなに楽しそうに笑ってれば。そりゃモテるだろうなとは思うし。



 ――――……だから、ゲイだとか。恋人要らねえとか。一夜限りとか、女の子無理とか。

 そんな、人に言えないような暗めの部分があるなんて思いもしなかったし。


 そうと知ってからすら、この人を見てると、そんな部分があるようには見えない。






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