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1ミリ近づいて

「悶々」*大翔

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 ……ち。余計なこと言ったな。
    後悔していると。


「男女と違って、結婚という形が取れないっていう点が違う気もしますね」
「……違うと、何?」

「別れがたやすいのかも、とは思います。子供の為に別れないとか、男女ならありますけど、それもないですしね。愛情が全てな関係ですよね……」
「ふーん……」

「――――……それは、雪谷さんの話ですか?」
「んー……恋人は要らないんだって」

「そうですか。……何かしらそう思う理由はあるんでしょうけど……人それぞれですね」

「……もう二度と要らないって言ってた」
「過去に、恋人と何かがあったという事、でしょうね」

「――――……まあ。そうだよな」

 1人と、1回限り。
 ――――……もう、気持ちはそこには要らねえっつーことだよな。

 1回だけ……。
 きっと、少しの、執着も感じないように。

 ……徹底してンな。

 ぼんやりと考えいたら。

 葛城が、静かな声で言った。
 
「そこらへんは――――……踏み込まない方が、いいですよ」
「え?」

「……ご本人は色々考えての事でしょうから。――――……大翔さんが覚悟を決めて踏み込むんじゃなければ、軽々しく、入らない方がいいですよ」
「……ああ。分かってるよ。踏み込む気なんか、ない」
「……そうですか」


「――――……そもそもオレ、男に興味なんかねえし。覚悟なんかねえし……無理」


 それきり話を終わりにして、オレは、窓の外に、視線を向けた。
 マンションに着いて、葛城が来客用駐車場に停車する。オレは車を降りた。

「葛城、ありがとな」

 そう告げて、顔を上げると。
   ――――……雪谷先輩がすぐ近くに、立っていた。驚いた顔で。


「――――……」

 顔には出さなかったけれど、こっちも、十分驚いた。
 何で今まで一度も会った事無かったのに、昨日に続き、今日も会うんだ。


「……雪谷先輩」
「う、わー。四ノ宮……」

 名を呼んだ瞬間。先輩からそんな声が漏れた。

「うわーって何ですか。失礼ですよね」

 不愉快。
 それを思い切り顔に出した、オレ。

 ――――……つい今の今迄、葛城と完全に素で話してたからってのも、あるかもしれないけれど。先輩にも、かなり素が出せそうな予感もしてきた。

「あ、ごめん。 だってここ数日の、お前の出現率が半端なくて」
「こっちのセリフでもあるんですけど。オレが出現してるみたいな言い方やめてくれません?」

「あ、確かに。お互いだよな」

 そんなやりとりをしていると。
 葛城が、降りてきて、先輩に挨拶をし始めた。

 葛城は勘が良いから、オレの素の話し方で何かを悟ったから、わざわざ車から下りてきたんだろうと思って、会話を聞いていると。

 案の定、先輩と話した葛城は、昨日伝えた「ゼミの先輩」と「雪谷奏斗」を先輩の言葉で聞くと。――――……興味深そうに、顔を綻ばせた。


 昨日葛城が、先輩の名前を覚えておくといった時は、どうせ会う事もないしと思ったのだけど。

 まさかこんなに早く会うとは。


 執事という言葉に興奮気味の先輩。
 ……面白いな。

 そんな先輩を、品定めでもしてるんだろう。妙にゆっくり間を置いて話している葛城が「大翔さんをよろしくお願いしますね」とか、言い出した。

 ……先輩が、葛城のお眼鏡にかなったっつー事か。

 ……それにしたって、先輩にしたら、意味が分からないに違いない。

 「お会いできてよかった」なんて言葉に、更に先輩が戸惑ってるのを見て、オレは、一歩前に出た。


「……葛城、ありがと、送ってくれて――――……もう、帰っていいよ」


 ちら、と葛城が視線を送ってくる。
 もう帰れ、と少しだけ眉を顰めると。
 大きなため息をついて、適当に挨拶をした葛城は、やっとのことで帰って行った。

 何となく見送ってから、先輩と一緒に部屋の前に到着。
 鍵を開けて、何となく、先輩に視線を向けた。


「……これからどっか行くんですか?」
「え? これから? 行かないよ?」
「……クラブとか」
「行こうかなと思ったけど……ちょっと体痛いし。やめた」
「――――……そーですか」


 ――――……体。痛い。

 それって。
 ……何をして、痛くなってる訳。

 ――――……やっぱ、家でも、そーいう事する訳か。


 ……あー。昨日、向こう行っといてよかった。



「あ。アイス、食べる? さっきいくつか買って……一回冷凍庫で冷やしたほうがよさそうだけど」

「……いらないです。おやすみなさい」

 オレはそう言うと、先輩から視線をはずしたまま、別れた。



    なんか。
 ――――……すげえ、悶々とする。







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