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1ミリ近づいて

「変なの」*奏斗

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「お邪魔します。あ。鍵置かせてください」
「そこ置いていいよ」

 台に鍵を置くと、オレが並べたスリッパをはいて、中に入ってくる。

「……同じ間取りっぽいですね」
「ふーん、そうなんだ」

 リビングに入ると、四ノ宮はふと見回してる。


「間取りは一緒みたいなのに、なんか風景全然違いますね」
「そーなの?」
「はい」

「ふーん…… あ、四ノ宮、こっち来て」

 呼んでから、冷凍庫を開けて、アイスを見せる。


「どれがいい?」
「……バニラので」

「はい。あ、スプーン」

 引き出しからスプーンを出して、四ノ宮に渡す。

「そこのテーブル座ってて」

 2人掛け用のリビングテーブル。
 真斗以外が座るの、初めてかも。

 友達が来る時とかは、少し大きなローテーブルを囲んじゃうからなあ。
 2人掛けだから、近いんだよな、距離が。


「はい、コーヒー」
「――――……ありがとうございます」

「うん」

 笑って頷いて見せる。
 オレは、チョコのアイスを持って、四ノ宮の前に座った。
 

 …………まあ、自分で、軽ーく、誘ってしまったとは言え。

 ……変なの。
 こいつがここに居るとか。


 木曜の夜の間ずっと、怯えてた相手だし……。

 でもなんか、怯えがなくなったら。
 ……結構、興味深いんだよなー。


 なんで、こんななのかなあ、とかさ。
 せっかくモテモテなんだから、素直に受け止めて、楽しく生きればいいのに、とか。オレとは違ってノーマルなんだし、美人の彼女とさ。居ても全然良いと思うのにな。

「どーぞ」
 言うと、いただきます、と言って食べ始める。


「――――……変なの、お前がここに居るの」

 素直にそう言ったら、四ノ宮はアイスを口に入れながら、頷いた。

「オレもそう思います」
「あ、そう思うんだ」

 クスクス笑いながら、オレもアイスの蓋を取って、一口めを口に入れた。

「あ、美味い、これ」

 あたりだな、これ、と何のアイスだっけと外装に書いてある事を眺め始めた時。テーブルの上のスマホが鳴りだした。

「あ、ごめん。ちょっと電話するね」

 頷くのを見て、通話をタップして耳に当てる。


「真斗? うん。ああ、シャワーだった?」
『うん。……何、カナ、体痛いって』

「え、お前体痛くねえの? オレ絶対明日、すげえ筋肉痛だけど」
『なまり過ぎじゃねえの?』
「ふざけんなよ、午前も午後も付き合わせといて、そんな事言う? 現役のお前によく付き合ったと思わねえ? つか、オレ、すげえ頑張ったのに」

 そう言うと、真斗が電話の向こうでクスクス笑い始める。

『嘘。分かってるよ、ありがとな、カナ。 今日明日はゆっくりしてよ』
「言われなくてももう絶対ゆっくりするから」

『ん、そうして。 オレ、明日早いから、寝る準備して寝る。またね』
「うん。おやすみ。頑張って」
『ん、おやすみ』

 通話を切って、スマホをテーブルに戻す。

「ごめんな」
「いえ――――…… あの……今の電話って……」

 なんか不思議そうな顔してる四ノ宮に、ん?と首を傾げる。


「昨日ちょっとだけ会ったろ?」
「……はい」

「弟だよ。真斗っていうんだ」

 そう言ったら。
 ……何でか知らないけど、なんか、ものすごい、ぴた、と、固まった。


「え? 何でそんなに、固まんの? 真斗がどうかした??」


 …………全然、表情からは、何考えてんだか、読めない。


 ポーカーフェイスというか。
 顔に出さないっつーのが身についてんのかな。

 
 もーー。 ほんと一体、何??? 
 全然分からん。





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