28 / 551
1ミリ近づいて
「アイス、一緒に」*奏斗
しおりを挟むドアを閉めて、手を洗って、冷凍庫にアイスを詰めてる時。
ふっと気づいた。
『……これからどっか行くんですか?』
『……クラブとか』
って。さっき、何であいつ、言ったんだろ?
――――……オレ、クラブで相手探すって、言っちゃったからなあ……。
でも、何なの。
オレ、こんな時間から、夜な夜なクラブに繰り出して相手を探し求めてるとか思われてるのかな、もしかして。
いやいや、オレ、そんなには行かないからね。
大体我慢してて……って、我慢って言い方もおかしいけど。
でも、どうしてもの時に、行くだけで。
ちょっと今度、訂正しておこう。
だって。ものすごい、スキモノ、みたいで嫌だ。
まあ、ゲイっていう段階で、あいつにとってどんなイメージなのか分かんないけど。
……ゲイで一夜限りで、夜な夜な繰り出す奴って!!
わー、なんかすっげー嫌な先輩じゃねえ?
わーわー、すげえ恥ずかしい。
いますぐ、ちゃんと否定しておきたい。
バレるリスクも最低限に抑えたいし、回数が増えれば、色んなリスクも上がるし。
一応オレ、ちゃんと考えて、やってるんだよー!
……と、どこまで言えるか分からないけれど、
どこかで確実に、少しでも、伝えておこう……。
なんて思って、かなり狼狽えながらシャワーを浴び、最後、今度言っておく結論を出して、ため息をついた。
ドライヤーで髪を乾かしてから、キッチンでコーヒー豆を手挽きした。
コーヒーメーカーにセットしてスイッチを入れてから、通知が光ってるスマホを手に取って開くと、少し前に真斗から帰宅連絡が来ていた。
「おかえり。なあ、オレ、今すでに体が痛いんだけど」
そう入れて少し待つけど。既読が付かない。シャワーかな。
まあいいや。そう思って、テーブルにスマホを置こうとした瞬間。
ぶる、と振動して、手の中で着信。
あ。四ノ宮だ。
直接連絡がきた、ってことは――――…… 友達追加、したってことか。
木曜の夜は、個別に繋がってないから、かける事が出来なかったけど。
「もしもし?」
『あ、先輩ですか?』
「うん」
『あの……』
「……うん??」
少しの、沈黙。
『――――……やっぱり、アイスもらえますか?』
「え?」
咄嗟に、ぷ、と笑ってしまう。
「急に電話してくるから、何かと思ったら――――……」
クックッと笑ってしまいながら。
「アイス、食べたくなっちゃったの?」
からかうように、そう言ったら。
少しの沈黙の後。
『オレ普段あんまり食べないんで、家には無くて』
「うん、いーよ、取りに来なよ。好きなの選んで――――……つか、コーヒー淹れてるし、食べにくる?」
『コーヒー?』
「いつも多めに淹れちゃうから、四ノ宮の分もあるよ」
『――――……ほんとに、行っていいんですか?』
「うん、別にいーよ」
一昨日までだったら、ありえない発言だけど。
――――……昨日話したおかげで、ずっと感じてた怖さは消えてる。結構驚くほどすっきりと。
『じゃあ……行きます』
「うん。すぐ来る?」
『シャワー浴びたとこなんで、髪乾かしたら行きますね』
「ん。コーヒーって、ブラック?」
『はい』
「じゃあ待ってる」
電話を切って、スマホをテーブルに置く。
コーヒー、後少しで淹れ終わる。
良い匂い。
やっぱり手挽きのミルで挽いた方がもう、香りが断然良い。
――――……さっき別れ際、機嫌悪いなと思ったけど。
あれ、気のせいだったのかなあ。
オレに何かムカついてるとかなら、わざわざアイスなんて電話はしてこないよな?
……うん。気のせいだったに違いない。
「――――……」
ぴぴ、という電子音。コーヒーメーカーの終了の通知音。
……四ノ宮来るならドリッパーでやれば良かったなぁ。
なんて思いながら、コーヒーをカップに注ぐ。
淹れ終わったコーヒーメーカーの後始末、洗い終えて手を拭いた所で、チャイムが鳴った。
玄関まで急いで、鍵を開ける。
「どーも」
オレの顔を見てそれだけ言って、中に入ってくる四ノ宮。
「ごめん、鍵かけてくれる?」
「はい」
うん。
なんか。この数秒だけ見ても。今までのこいつとは全然違う。
「見事すぎる愛想笑い」が無いって――――……。
それだけでも、すごい良いかもしれない。
88
お気に入りに追加
1,593
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる