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1ミリ近づいて
「アイス、一緒に」*奏斗
しおりを挟むドアを閉めて、手を洗って、冷凍庫にアイスを詰めてる時。
ふっと気づいた。
『……これからどっか行くんですか?』
『……クラブとか』
って。さっき、何であいつ、言ったんだろ?
――――……オレ、クラブで相手探すって、言っちゃったからなあ……。
でも、何なの。
オレ、こんな時間から、夜な夜なクラブに繰り出して相手を探し求めてるとか思われてるのかな、もしかして。
いやいや、オレ、そんなには行かないからね。
大体我慢してて……って、我慢って言い方もおかしいけど。
でも、どうしてもの時に、行くだけで。
ちょっと今度、訂正しておこう。
だって。ものすごい、スキモノ、みたいで嫌だ。
まあ、ゲイっていう段階で、あいつにとってどんなイメージなのか分かんないけど。
……ゲイで一夜限りで、夜な夜な繰り出す奴って!!
わー、なんかすっげー嫌な先輩じゃねえ?
わーわー、すげえ恥ずかしい。
いますぐ、ちゃんと否定しておきたい。
バレるリスクも最低限に抑えたいし、回数が増えれば、色んなリスクも上がるし。
一応オレ、ちゃんと考えて、やってるんだよー!
……と、どこまで言えるか分からないけれど、
どこかで確実に、少しでも、伝えておこう……。
なんて思って、かなり狼狽えながらシャワーを浴び、最後、今度言っておく結論を出して、ため息をついた。
ドライヤーで髪を乾かしてから、キッチンでコーヒー豆を手挽きした。
コーヒーメーカーにセットしてスイッチを入れてから、通知が光ってるスマホを手に取って開くと、少し前に真斗から帰宅連絡が来ていた。
「おかえり。なあ、オレ、今すでに体が痛いんだけど」
そう入れて少し待つけど。既読が付かない。シャワーかな。
まあいいや。そう思って、テーブルにスマホを置こうとした瞬間。
ぶる、と振動して、手の中で着信。
あ。四ノ宮だ。
直接連絡がきた、ってことは――――…… 友達追加、したってことか。
木曜の夜は、個別に繋がってないから、かける事が出来なかったけど。
「もしもし?」
『あ、先輩ですか?』
「うん」
『あの……』
「……うん??」
少しの、沈黙。
『――――……やっぱり、アイスもらえますか?』
「え?」
咄嗟に、ぷ、と笑ってしまう。
「急に電話してくるから、何かと思ったら――――……」
クックッと笑ってしまいながら。
「アイス、食べたくなっちゃったの?」
からかうように、そう言ったら。
少しの沈黙の後。
『オレ普段あんまり食べないんで、家には無くて』
「うん、いーよ、取りに来なよ。好きなの選んで――――……つか、コーヒー淹れてるし、食べにくる?」
『コーヒー?』
「いつも多めに淹れちゃうから、四ノ宮の分もあるよ」
『――――……ほんとに、行っていいんですか?』
「うん、別にいーよ」
一昨日までだったら、ありえない発言だけど。
――――……昨日話したおかげで、ずっと感じてた怖さは消えてる。結構驚くほどすっきりと。
『じゃあ……行きます』
「うん。すぐ来る?」
『シャワー浴びたとこなんで、髪乾かしたら行きますね』
「ん。コーヒーって、ブラック?」
『はい』
「じゃあ待ってる」
電話を切って、スマホをテーブルに置く。
コーヒー、後少しで淹れ終わる。
良い匂い。
やっぱり手挽きのミルで挽いた方がもう、香りが断然良い。
――――……さっき別れ際、機嫌悪いなと思ったけど。
あれ、気のせいだったのかなあ。
オレに何かムカついてるとかなら、わざわざアイスなんて電話はしてこないよな?
……うん。気のせいだったに違いない。
「――――……」
ぴぴ、という電子音。コーヒーメーカーの終了の通知音。
……四ノ宮来るならドリッパーでやれば良かったなぁ。
なんて思いながら、コーヒーをカップに注ぐ。
淹れ終わったコーヒーメーカーの後始末、洗い終えて手を拭いた所で、チャイムが鳴った。
玄関まで急いで、鍵を開ける。
「どーも」
オレの顔を見てそれだけ言って、中に入ってくる四ノ宮。
「ごめん、鍵かけてくれる?」
「はい」
うん。
なんか。この数秒だけ見ても。今までのこいつとは全然違う。
「見事すぎる愛想笑い」が無いって――――……。
それだけでも、すごい良いかもしれない。
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